レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部3章 深底の安息
3. 個々の事情 01


「タウディと申しまして、リオーネの兄でございます。メナウルと隣接するルジェナとラジェスを治めております。どうぞお見知りおきを」
 フォースは、深々と下げられた薄茶色の髪を見て、レクタードの家族は伯父まで金髪なわけではないんだなどと思いつつ、丁寧なお辞儀を返した。笑顔ではあるが、フォースの表情は硬い。頭を上げたタウディも、いかにも気のいい紳士に見えるような形ばかりの笑顔を浮かべ、その場から下がった。
 披露目の宴が開かれているこの部屋は、謁見の間とくらべるといくらか小さい。だが、それ以上に参加人数も前日よりはずっと少なくて五十名程だ。比べると十人に一人くらいだろうか。晩餐の用意もなされているのだが、それでも部屋の隅にいれば充分に内密な話もできそうなほど、ゆったりしている。
 来賓は厳重な基準によって選ばれているのだろう、誰もがこれでもかというくらい上等な服を身に着け、高雅な雰囲気があった。
 その中に各領地で領主と呼ばれる人間が混ざっていたことを、フォースは紹介されて初めて知った。
 メナウルでは各領地の代表者を領地の住民達が選び、その代表者に委任する形の行政なので、皇族と領主、つまり代表者には明らかな違いがある。しかし、ここライザナルでは会場を見回しても、誰が皇族の血縁者で誰が領主なのか、ほとんど見分けがつかない。
 タウディのように、皇族の血縁者が領主をしているところが多いせいなのだろうとは思う。だが、普段からそれだけの暮らしをしているのか、それとも上等な衣服を一着は持っているモノなのかまでは、フォースには分からなかった。
 飽きるほど挨拶を交わしたあと、クロフォードが手を叩いて立ち上がった。思い思いの場所にいた来賓達が、それぞれテーブルの前に落ち着く。
 まわりが静まったところで、クロフォードは、用意してあった一番小さなグラスを手にとって眼前に掲げた。中に入っている不透明な赤い液体を、糸を引くように細く床に垂らし、空になったグラスをテーブルの隅に伏せて置く。それを合図にしたように、それぞれが席につき会食が始まった。
 その一連の行動にどういう意味があるのか、フォースには理解できなかったが、とりあえずこういうモノなのだと思わざるをえなかった。後ろにいたジェイストークに促され、フォースも席につくためにジェイストークの後に続く。
「覚えてくださいましたか?」
 この部屋にいる人々の名前と顔のことだろう、ジェイストークが尋ねてくる。たぶんだいたいは覚えただろうと思いつつ、フォースは首を横に振った。
「まぁ、この人数ですからね。追々覚えていただければ」

3-02へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP