レイシャルメモリー 3-02
今まで一度に多くの人間と挨拶を交わしたのは、騎士になって兵士と初めて顔を合わせた時くらいだ。その時も、十四歳の新人騎士だったために実力を疑われたのだろう、疑心や軽侮に満ちた挨拶だった。そして今回のも初めて知り合った同士の挨拶とは違って、どんな人間かを見極めようと探られている感が強い。
単純に何を考えているのか理解できる兵士との挨拶の方が、何倍も楽だった。この部屋にいる来賓達は、どうにかしてフォースの歓心を買おうと調子を合わせ、おべっかを使い、見え透いた世辞を言う。思わず本心はどこにあるのかと、こちらからも探りながら対応してしまい、疲れてしまうのだ。
その挨拶からやっと解放されたと思ったフォースがジェイストークに促された席は、クロフォードの隣だった。ため息をつくわけにもいかず、一段高くなった席に素直に腰掛けたが、それだけでまた視線が集まってくる。隣からクロフォードの視線も感じたが、フォースは部屋の中をゆっくり見渡し、だいたいの視線が逸れてからクロフォードに目をやった。フォースを見つめていたクロフォードの視線が緩む。
「物怖じしない毅然とした態度は立派なものだな」
「機嫌が悪いだけです。閉じこめておいて、こんなところには出ろなどと」
抑揚のないフォースの言葉に、クロフォードは控え目だが声を立てて笑った。そのままの笑顔でフォースの耳元に口を寄せる。
「まさか彼らに幽閉しているとは言えんだろう」
「かまいませんが」
フォースが言い捨てた言葉にも笑みを向けてから、クロフォードは次第に難しい顔つきになってくる。
「なんにしろ、いつまでもこのままでいるわけにはいかん。ジェイストークにも話を聞いたが。シェイド神が攻撃などしてくるのは、お前がシャイア神を守っているからではないのか? できれば一年を待たずに巫女を」
「約束してくださったはずです」
これだけはどうしても譲れない。フォースは前に視線を据えたまま言い切った。クロフォードのささやきが続く。
「お前もその娘が欲しいのだろう? 一年経てば同じ結果になるだけだ。ならば」
「約束してくださったはずです」
荒げたくなる声を必死で押さえ、フォースはできる限り静かに繰り返した。短く息を吐くと共に、クロフォードに幾分笑みが戻る。
「まぁよい。こんなところで争っても仕方がない。だがな、そのせいでシェイド神はお前と会わないと言っているそうだ」
その言葉に眉を寄せ、フォースはクロフォードを振り返った。
「言っている?」
「そうだ。どうした?」