レイシャルメモリー 3-04
フォースは、クロフォードの反対側にいるレクタードが、チラチラとこちらを気にしていることに気付いた。クロフォード越しに苦笑を向けると、レクタードは軽く肩をすくめる。
「なんだ? どうした?」
クロフォードの関心がレクタードに移る。来賓の中でやり合うわけにはいかないのだ、話しが途切れたことに、フォースは心底ホッとした。
レクタードは気を落ち着けるためか、小さく息を吐いてから口を開く。
「結婚をお許しいただきたい女性がいるのですが」
「結婚? ほう、どんな女性だ?」
クロフォードの表情が明るくなった。レクタードは普段と変わらない調子で、淡々と話しを続ける。
「スティアといいます。おおらかで明るくて、とても強い女性です」
うむ、とクロフォードは大きくうなずいた。レクタードは、一息置いてから口を開く。
「スティアはメナウルの皇女なのです。できることなら戦を止めていただくわけにはいかないでしょうか」
フォースが思わず顔を背けたその後ろに、クロフォードのため息を感じた。
「またメナウルか」
それとこれとは話が別だ。何も関連づけなくてもとフォースは思う。クロフォードの視線がレクタードの方へ戻っていく。
「戦は止めん。それでもそのスティアとやらがライザナルへ来るというならそれも止めはせんが。正妃とするかは考えさせてもらう」
クロフォードの言葉に、レクタードはしっかりと頭を下げた。もう少し盾突いて欲しいと思ったが、今のレクタードは伝えるだけで充分だと考えていたのだろう、それ以上何も言わなかった。
メナウルから遠く離れてしまうと、出てくる食事の中に、フォースにとって見慣れない食材が多くなった。手を止めるたび、後ろに控えているジェイストークが、その名前をささやいて教えてくれる。
ジェイストークの優しさに慣れてはいけないと思いつつ、もう既に身体の芯まで染み込んでしまっているようだった。だが、どうしても気に掛かることが、フォースの中に一つだけ残っている。
アリシアのことだ。あのアリシアが懺悔してしまうほどに後悔しているのは、何か普通じゃない出来事があったからではないかと思ってしまう。
「それは……、メナウルにもあるじゃないですか」
ジェイストークは、考え事をして手が止まっただけのフォースに声をかけてきた。いい機会だから聞いてしまおうと、フォースはジェイストークに目を向ける。
「一度聞いてみようと思っていたんだけど」
「なんです?」