レイシャルメモリー 3-07
「あ、いや、どうしてって……」
「不潔だわっ。知らないっ」
ニーニアはそう言い捨てると、廊下に駆け出していく。その後をイージスが追った。二人が部屋を出て行くのを茫然と見送って、レクタードはフォースと肩を並べる。
「なんか凄い勘違いされてないか? 巫女相手じゃ、なんにもできないだろ」
「ああ、一応そういうことになっ」
そこまで言ってしまってからハッとして、フォースは口を押さえた。レクタードは忍び笑いを漏らし、フォースの耳元に口を寄せる。
「不潔?」
「いや、そこまでは」
二人は視線を合わせ、お互いに冷笑を向ける。
「まぁでも、なんだかラッキーな方向だし、しばらくはこのままでいいよ」
そう言うと、フォースはため息をついた。レクタードがフォースの顔をのぞき込む。
「そのわりに浮かない顔だな」
「とんでもないモノ思い出した」
「とんでもないモノ? ああ、ホクロのない」
そこまで口にして、レクタードは笑い出した。レクタードの笑い様が気になってまわりを見回し、フォースは、また視線が自分たちに集まっていることに気付いた。皇太子二人がゴソゴソ話しをしながら変な笑いを浮かべているのだから、当然といえば当然かとフォースは思う。
「一度、席を外せないかな」
「少しくらいなら、いいんじゃないか?」
レクタードはそう言うと、ジェイストークを振り返った。ジェイストークは、はい、と頭を下げ、先に立って歩き出す。
ニーニアの通ったドアから部屋を出た。ジェイストークは、ドアの側に立っていたアルトスに何か耳打ちしてから、部屋の中に姿を消す。
フォースとレクタードは、部屋の向かい側、廊下の反対側に進んだ。そこは柱が等間隔に立っていて、柱と柱の間は欄干でふさがれている。その向こうには、マクラーンの街が広がっていた。
フォースは大きく深呼吸をした。少し緊張は解けた気がしたが、また戻らねばならない。完璧に気を抜いてしまうわけにはいかなかった。こんな状況が続くと思うだけで、気が滅入ってくる。
レクタードは、どこにいても自然に見える。慣れというよりも、これが育ちというモノなのだろう。今さらどうしようもないとフォースは思った。
「父にスティアのことを伝えたら、スッキリしたよ。思ったよりは好感触だったし」
レクタードは欄干に手を置き、街に目をやったまま話しを切り出した。どんな返事が返ってくると考えていたのだろうと思い、フォースは苦笑を漏らす。