レイシャルメモリー 3-09


「レクタード様、お久しぶりでございます。メナウルからお戻りの際には、ルジェナ城にもお越しいただけるかと」
 タウディは二人のすぐ前まで来ると立ち止まり、かしこまった。レクタードは軽く頭を下げる。
「申し訳ありません。色々忙しかったので」
「いえいえ。私も、まさかご一緒にレイクス様がおられるとは、思ってもみなかったモノですから」
 タウディの笑みがフォースに向いた。
「こうしてお二人でおられると、まるで昔からのご友人のようですね」
 兄弟なのだから、友人に例えるのもおかしな話しだ。嫌味なのだろうと思いつつ、フォースはなんと返事をしていいか分からず、素知らぬ振りで笑みを返した。レクタードは一瞬顔をしかめたが、フォースとの間に立つようにタウディと向き合う。
「伯父上も息抜きですか?」
「母君と話そうと思っていたのですが。ああ、どうぞお気になさらず。それよりそろそろ戻られた方がよろしいのでは?」
「ええ。戻ろうと話していたところです。戻りましたら母に伝えておきますよ。では」
 レクタードはタウディに会釈してドアまで行き、そこに立っていたアルトスに何か耳打ちすると二人で部屋の中を覗き込んだ。
 フォースは頭を下げているタウディを横目で見ながら通り過ぎる。完全に背を向けた瞬間、微かな金属音が耳に届き、フォースは振り返った。
 最初に目に入ったのは、突き出されてくる短剣だった。フォースは身体を引いて避け、短剣の握られた手をつかんで引くと共に足をかける。タウディは盛大な音を立ててひっくり返った。その手からこぼれ落ちた短剣を、フォースは壁際に蹴り飛ばす。ちょうどこちらを向いたアルトスと目があったが、フォースは目をそらしてかがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
 そう言って起こしにかかったフォースを、タウディは目を丸くして見上げた。音に驚いたレクタードも駆け戻ってくる。
「どうしたんです?」
「い、いや、私は」
 タウディはレクタードに支えられて立ち上がると、狼狽えた視線をフォースに向けた。その後ろでアルトスが、壁際にある短剣に目をやっている。フォースはタウディの膝のあたりをのぞき込み、服に付いた埃を払う。
「あまりこういうことがあると、痛いじゃ済まなくなりますよ。気をつけないと」
 そう言って身体を起こすと、フォースはタウディと視線を合わせた。タウディはギクシャクと視線を逸らす。
「わ、私は……」
「中に入って座って休まれてはどうです? 行きましょう」

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