レイシャルメモリー 3-10
フォースはレクタードに、部屋へ入るように促した。二人のあとから入室しようとしたフォースの腕をアルトスが掴み、足を止めたフォースを、レクタードが振り返る。フォースは苦笑すると、先に行ってて、とレクタードを部屋の方へと押しやってから、アルトスと向き合った。
「何だよ」
「どういうつもりだ?」
「何が」
「見ていないとでも思ったか」
壁際の短剣を指し示して言うアルトスに、フォースはチッと舌打ちする。
「護衛してくれるんじゃなかったのか?」
「どの程度まで放っておいていいかくらいは分かっている」
アルトスの答えに、フォースは乾いた笑い声を立てた。
「護衛の立場で今まで黙っていたんだ、最後まで見逃してくれてもいいだろうに」
「見逃すだ? お前は命を狙われたんだぞ」
声を潜めてはいるが、アルトスの怒りがフォースに伝わってくる。フォースは鼻で笑って肩をすくめた。
「あれじゃあいくら狙われたって、五十回に一回怪我するかもしれないって程度だぞ」
「そんなことは関係ない」
眉をひそめたアルトスに、フォースは冷笑を向ける。
「あの地位にいて人を雇わなかったんだ、ちょっとは敬意を表していいんじゃないかと思って。いや、彼が頼まれた方かもしれないんだけど」
「あれが敬意を表せるようなことかっ」
睨みつけてくるアルトスの鎧を引っぱり、フォースはアルトスの耳元に口を寄せる。
「都合が悪いんだ。継ぐ者の親族にあんなのがいると」
「そんな理由で、」
「もう一つ。俺がライザナルに邪魔だというなら、結局は俺の味方だからね」
その言葉にアルトスは声を失い、呆然としてフォースの顔を眺めてくる。フォースはこらえられずに、ノドの奥で笑い声をたてた。
「その辺をふまえて護衛よろしく。じゃあ、そういうことで」
フォースがアルトスに背を向けると、アルトスは慌てたようにもう一度フォースの腕を掴んで引く。
「馬鹿か、お前は! 自分がなにを言っているか分かっているのか?」
アルトスが荒げた声に、まわりの視線が集まった。馬鹿と言われてどうするのかと興味津々な視線が可笑しくて、フォースはアルトスにそのままの笑顔を向ける。
「分かってるさ。信頼してるよ」
フォースはそう言うと、大きなため息と共に頭を抱えたアルトスに背を向け、会場の中央へと戻っていった。