レイシャルメモリー 4-03


「あぁ、重かった」
「ありがとう」
 フォースの礼に、ソーンは照れくさそうにヘヘッと笑った。
「毒が残っていないか、不備はないか、チェックいたしました。万が一に備えてご着用ください」
 フォースは何も考えず、言われるまま鎧を着けた。ひんやりした金属の手触りも、金具の立てる音も、ただひたすら懐かしい。ソーンの好奇心に満ちた目が、ルーフィスが鎧を着けるのを見ていた頃の自分を思い出させる。
 着け終わり立ち上がってみると、その鎧は記憶よりも幾分重く感じ、身体が完璧に戻っていないのがよく分かった。毒を受けて寝込んだことももちろんだが、移動を重ねた時期が長く、動いていなかったからだろう。だが、その重量さえも満ち足りた気分にさせてくれる。
「行きましょう」
 ジェイストーク、ソーンと一緒に部屋を出た。いつの間にか新しい花で埋まった花壇を伝うように裏庭に出ると、そこではアルトスがレクタードに剣の稽古をつけていた。レクタードは鎧など防具一切を着けていない。
 レクタードがフォースを見つけ、いきなり手を止めた。フォースは、危ないと叫びかけて言葉を飲み込む。アルトスは難なく剣をひいていた。レクタードがフォースに笑顔を向ける。
「フォース、その格好」
「レイクス様です」
 アルトスに言い直され、レクタードは肩をすくめる。
「ジェイは突っ込まなくなったのにな」
 その言葉で、アルトスの視線がジェイストークに向いた。ジェイストークの変わらない笑みに眉根を寄せ、アルトスは口を開く。
「私に相手をしろというのか」
 アルトスがジェイストークに文句を言うのかとフォースは思ったが、アルトスが口にしたのはそのセリフだった。ジェイストークは、ただ薄く笑ってみせる。
 アルトスとジェイストークが話しをはじめると、阿吽の呼吸というのか、端折る部分が異常に多い。それだけ信頼や慣れが浸透しているのだろうが、会話を聞いている方は不意打ちを食らう気分になる。
 鎧を着けろと言われたのは、練習の相手がアルトスだからなのだと、フォースはそこで初めて気付いた。単純に練習させようと思ったのか、どの程度の刺客まで放っておけるか見極めようとしたのか、アルトスの本意は計り知れない。
 それにしても、意地でもアルトスに情けない姿は見せたくないとフォースは思った。アルトスと練習をする前に、他の誰かと練習させろと、思わず文句を言いたくなる。
「行くぞ」
 その声に振り向くと、アルトスは既に剣を振りかぶっていた。フォースは条件反射のように剣を抜いて頭上で受ける。
 剣が容赦なく重い。フォースは受けた剣を右に流して左に飛び、体制を整えようと試みた。その左に退路を断つような突きが出され、フォースはその剣を弾く力を利用し、ようやく対峙する形を取る。

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