レイシャルメモリー 4-04


「どうした。来ないのか?」
 アルトスの言葉に、カッとフォースの血が沸いた。左へのフェイントで誘った突きを右にかわし、剣の柄で手首を狙い、かわされると切っ先を返して横に薙ぐ。アルトスはその剣を難なく受けると、フォースの眼前に剣を突き出した。体勢を低くして切っ先を見送り、フォースは剣を振り上げて腕を狙う。アルトスはそれを柄で受けると、首の高さで剣を薙いだ。フォースは剣に腕を添えて首の横ギリギリで受けとめる。
 レクタードが何か言っているようだが、フォースの耳には既に言葉には聞こえなかった。否応なくアルトスの剣や身体の動きだけに集中させられる。アルトスの突きが多い。それだけ自分に大きな隙が多いのだとフォースは思う。
 フォースが剣を受け、流すたびに、身体のことや意地、自尊心など、余計なことすべてがそぎ落とされ、気が張りつめていく。鈍っているだろうと思っていた感覚も、思っていたよりは簡単に戻ってきた。
 どのくらい経ったか、ふとアルトスの手が止まった。訝しく思って目を向けたフォースに、アルトスは視線で城の出入り口を示す。荒い息をのままフォースが振り返ると、そこにいたニーニアと目が合った。
「呼んできましょうか?」
 そう言ったジェイストークにチラッと視線をやり、フォースは特に返事もせず目をそらす。その様子を見てジェイストークは、何を伝えようというのか、ソーンを連れてニーニアとイージスの元へ駆け寄っていった。
 フォースが荒くなっていた呼吸を整えようと、何度か大きく息をして振り向くと、イージスがジェイストークと入れ替わりにこちらにやってくるところだった。フォースは剣を鞘に収める。ニーニアとジェイストーク、ソーンの姿は、いつのまにか見えなくなっていた。
「ニーニア、まだ怒ってるんだ」
 レクタードがイージスに声をかける。イージスは、はい、と返事をしてかしこまる。
「ですが、苛立っていることを、悲嘆もしておられます」
 その言葉にレクタードは苦笑した。
「分かりやすい奴だよな。フォースとは、もう少し距離を置いてやった方が、ニーニアのためにはいいと思うんだけど」
「だからといって、あのような話しをニーニア様のお耳に入るような場所でなさるなど、慎んでいただきたいのですが」
 イージスは、フォースとレクタードを交互に見つめる。レクタードはチラッと舌を出した。
「いや、あれは。単に話しの流れで。気をつけるよ」
「もう少し緊張感を持って、俺はあくまでも他人でいてやった方がいいんだろうな」
 フォースは、レクタードに同調するようにうなずいた。だがレクタードは、フォースに苦笑を向ける。

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