レイシャルメモリー 4-05


「他人って。兄妹なんだから、それ相応の付き合いはしてやってもいいだろうに」
「難しいことを言うなよ。どこまでが兄妹でどこからが違うなんて、そんな器用なことが俺にできると思うか?」
 フォースが質問を振ると、レクタードは乾いた笑い声をたてて、そうだな、とうなずく。フォースは、簡単に認められたことにホッとはしたが、少し腹立たしくも思った。二人の会話にいくらか表情を緩めたイージスが、もう一度態度を引き締め、フォースに向かって口を開く。
「次にニーニア様にお会いになった時にでも、謝罪願えませんでしょうか」
「謝る?」
 聞き返したフォースに、イージスは、はい、と軽く礼をする。
「ニーニア様は、ご自分が怒ったことでレイクス様を不機嫌にさせたのではと、怖れておられます。このままでは、お可哀想すぎます。子供相手だと思って、どうか」
 イージスの言葉で、フォースはニーニアが部屋に飛び込んできて鍵を閉めてしまった時のことを思いだした。
「子供扱いするなって言われてるんだけど」
「申し訳ありません」
 丁寧に頭を下げたイージスに、フォースはため息をつく。
「まぁ、いいけど。でも、なんて謝ればいい? まさか、リディアの胸は見ただけだとか?」
 その言葉に、レクタードが吹き出した。
「いや、それはちょっと。あのような話しはもうしない、でいいだろ」
「でも、それだと話しがズレてる。それくらいなら、知らない振りで別のことを話しかけてやった方がよくないか?」
 フォースはレクタードが肩をすくめるのを見て、イージスに視線を移した。イージスは再び、だが今度は深いお辞儀をする。
「お願いします」
「結局、それ相応の付き合いをしなければならないってことか」
 フォースは、眉を寄せて小さく息を吐いた。それ相応といっても、後のことを考えるとあまり馴れ合いたくはない。すぐに態度を硬化させようと思う。
「休憩は終わりだ」
 アルトスの声に、フォースの手が無意識に柄を握った。それを見てレクタードが、あきれたような声を出す。
「まだやるのか?」
「立って話せるうちは、まだ足りん」
 アルトスが返した言葉に、フォースは剣を抜いて答えた。

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