レイシャルメモリー 4-06
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「うわ、すげぇ! 何これ?」
南向きの窓の側、ニーニアと話しをしていたソーンが大きな声を出した。ニーニアは顔をしかめる。
「何これって何よ」
「あ、そか。ええと、これはなんでしょう?」
「そうね」
ニーニアは腰に左手を当て、右手の人差し指をソーンの目の前に立てる。
「でも、すげぇ、というのも変よ」
「えっと、凄いですね、かな」
ソーンの言葉にニッコリ笑うと、ニーニアは右手を開いて見せた。手のひらにガラス玉が乗っている。
フォースはソファに座って、ぼんやりと二人の様子を見ていた。動くのがもったいないと思うほど、身体から余計な力が抜けている。
アルトスは容赦なかった。本当に立っているのが辛くなるほど、剣を振り続けた。剣を収めた時、途中で戻ってきていたらしいニーニアに、ほんの少しの笑みを向けるのがやっとだった。
アルトスは今もドアの向こう側で警備を続けている。化け物かと思いつつ、フォースはこのままの体力ではアルトスに適わないのだと思い知らされていた。
そして、ドアの内側にはイージスが控えている。フォースの部屋へ行くと言ってきかなかったニーニアに、しっかり付いてきたのだ。イージスは部屋に入った時から、微塵も動いていない。だが、たまに明るい茶色をした瞳がうかがうようにこちらを見ているのを、フォースは知っていた。
「座れば?」
「は? いえ、とんでもありません」
声をかけられたこと自体意外だったのか、イージスは慌てて答えた。フォースは、真面目だな、とつぶやきながら、自分の部下がそんなことをしていたら殴り倒すかもしれないと思い、苦笑する。
「そりゃそうか。護衛が仕事中に座っていられるわけが……」
フォースは、言いかけた自分の言葉にハッとして、背筋を伸ばした。
「あ、別に引っかけようとしたわけじゃ。ただ、護衛の立場を思いだしただけで」
「承知しております」
僅かに頬を緩めたイージスに、フォースは苦笑を向け、小さく息を吐いた。
「緊張も何もあったもんじゃないな。頭さえ働いてない」
「いえ。あんなに動かれた後ですから、無理もありません」
あれしか動けなかった。そう返したい気持ちを、フォースは押さえ付けた。イージスは本気でそう思っているのだろうかと疑問を持つ。ほんの少しだけ眉を寄せたフォースの表情を見て、イージスが心配げな視線を向けてきた。
「そろそろご就床なさいますか?」
「いや、まだいいよ。なんだか楽しそうにしてるし」
ニーニアとソーンがケラケラと声を立てて笑うのが聞こえてくる。イージスはその二人に控え目な笑顔を向けた。