レイシャルメモリー 4-07


 剣の実力がどのくらいかは分からないが、こんな風に心配りもでき人当たりもいいイージスは、護衛に最適だろう。そして女神の護衛なら、その生活に密着するのだ、女性の方がいいに決まっている。もしメナウルにイージスのような存在があれば、シェダはリディアの護衛に自分ではなく、そちらを選んだだろうとフォースは思った。
 自嘲するように笑ったフォースを見て、イージスが怪訝な表情を浮かべた。フォースは気が抜けたようにため息をつく。
「変な奴だと思ってるだろ」
「はい」
 迷い無く帰ってきたイージスの返事に、フォースは苦笑した。まっすぐにフォースを見つめてくるイージスに、フォースは、どうぞ、と話すよう促す。
「こちらに戻られるために手筈を整えておきながら、皇位をお捨てになるなど考えられません」
「手筈? なんのことだ?」
 訳が分からず聞き返したフォースに、イージスはうなずいて見せる。
「はい。反戦運動も巫女を恋人にしたのも、ライザナルに戻り、皇位を継がれるためではなかったのですか?」
 フォースは、イージスの勘違いが可笑しくて、堪えきれずに吹き出した。
「それ、とんでもないだろ。人間的に問題だと思わなかったのか?」
「いいえ。ライザナルのためだと解釈していましたから。なのに、すべてを無駄にするなど、どうしてかと。……、違うんですか?」
 イージスは、呆気にとられて聞いていたフォースに、疑わしげな視線を向けた。フォースは苦笑して肩をすくめる。
「い、いや、ゴメン。本気でそう思われていたのなら、笑い事じゃないな」
「では一体、なんのために戻られたのです? 反戦運動は、こちらに来やすいからではなかったのですか?」
 不思議そうなイージスに、フォースはまっすぐ視線を向けた。
「単純に戦をやめる方向に動く切っ掛けを作れないかと思っていた。いつか人を斬らずにすむ時が来ればと。そのためにまた斬って罪を重ねているんだから世話無いけど」
「斬ることを罪だと? それを感じながら戦をするなんて辛すぎませんか?」
 その言葉にフォースは懐かしさを感じた。グレイに同じような言葉をかけられたことがあったのだ。
「最初は意地だったかもしれない。でも今はいくら罪を重ねても、リディアが心から幸せに思える世界が欲しいんだ」
「巫女が、ですか?」
 聞き返したイージスに、フォースは、そう、とうなずく。
「前線に送り出す時には笑顔を見せてくれるけど、戻った時は泣くほど喜ぶんだ。待ってくれている間、どんな思いでいるかと思うと。傷つけないで、女神からも穏便に取り返したいし」

4-08へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP