レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部4章 凝結と弛緩
1. 堅忍 01
小さなランプを手に、リディアは階段を下りて書庫へと入った。部屋の真ん中にある木製の机にランプを置くと、壁一面を覆う本の背表紙に目を走らせる。シャイア神の指し示したこの部屋のどこかに、解決への糸口が眠っているのだ。
まぶたを閉じると、シャイア神の力が放出された時のことが浮かび上がってきた。苦しげな中、フォースは必死で何かを探っていた。そしてシャイア神がフォースにかけた、戦士よ、という言葉。
毒を受けたフォースの血を吸い出している時にも、同じ言葉を聞いた気がする。まるで愛おしむように優しく、言い聞かせるように強く。
リディアは目を閉じたまま、胸を抱くように手を重ね、シャイア神の存在を探した。自分の心臓の音が聞こえるその奥のどこかに、シャイア神は必ずいる。
フォースに何をしているのか、戦士とは何のことなのかを教えて欲しい。血を飲んだ意味も、何を望んでいるかも知りたい。そして、自分に何ができるのかも。
背後に階段を下りてくる音が聞こえ始めた時、心の奥底で虹色の光が顔を見せない朝日のようにあふれ出した。リディアがそっと瞳を開けると、本の背表紙が数冊、あちこちで同じ光を放っている。その本がゆっくり通常の状態に戻っていくことに気付き、リディアは慌てて手を伸ばした。
「リディア?」
階段を下りてきたグレイも、淡く残った本の光に気付いたのだろう、光を帯びた本を棚から引き出して机に重ねる。
「あと一冊、あそこに」
リディアが上の方に光を見つけて指差すと、グレイはガタガタと椅子を引きずってきて踏み台にした。グレイが目一杯上に手を伸ばすと、本の背表紙下部に、その指がかかる。
「出てこいって……」
少しずつ引っ張り出し、ようやくその本を手にすると、グレイは椅子を降りた。机の本にその本を重ねる。全部で六冊だ。
「どうしたんだ? これ」
本の背表紙にある題名を眺めながら、グレイがリディアに問いかけた。
「祈りながら疑問を並べてみたの。目を開けたら光っていて」
「じゃあ、これに答えが?! これだけなら一日もあれば」
グレイが期待のこもった目で、本をきちんと重ね直し、腕に抱えている。
「本当に教えてくださったのならいいのだけど」
「なに、順番が変わるだけだ、先に見てみるよ」
グレイはリディアに片目をつむって笑みを見せ、階段に向かった。
その時、部屋に入ってきたのだろう、一階からアリシアの声が聞こえてきた。
「いきなりそれって、ないんじゃない?」
「そうかな」