レイシャルメモリー 1-03
リディアはティオと手をつなぐと、アリシアに視線を向けた。アリシアは狼狽えたように声のトーンを上げる。
「リディアちゃん、気にしないでね? 聞かなかったことに」
冷めたような笑いが混ざったアリシアの言葉を、リディアは真剣な眼差しで見つめた。
「アリシアさん、フォースのことが好きなんですか?」
その言葉が意外だったのだろう、バックスは慌てたように吹き出し、アリシアは目を丸くする。
「ちょっ、ちょっと何言ってるの、そんなこと無いわよ。ただほら、あの子が連れて行かれたのは、私にも責任が」
どうにかして説明しようと必死になっているアリシアの腕を、バックスが引いた。
「だから、どうして結婚しないことで、その責任がとれるんだ?」
「リディアちゃんが辛い思いをしているのもそのせいなのよ? なのに私だけが……」
眉を寄せたアリシアの言葉に、リディアは静かに微笑んでみせる。
「私、自分のこと幸せだと思ってます」
その笑みを見て、アリシアとバックスは顔を見合わせる。リディアは二人の様子を見て苦笑すると、ティオに向き直った。
「そうよね?」
リディアの問いかけに、ティオが表情を変えずにリディアを見つめ、ウン、と首を縦に振る。人の心をのぞける、しかも子供のように単純なティオが言うのだ、疑う余地はないはずだった。
「ホントに?」
それでも信じられなかったのか聞き返したアリシアとバックスに、リディアはもう一度、努めて柔らかな笑みを向けた。グレイが本に目を落としたまま、ノドの奥で笑い声をたてる。
「そりゃあ、フラれたけど好きでいてもいいですよね? なんて言ってた頃とは比べものにならないくらい幸せだろうね」
「グレイさんっ?!」
一気に顔を上気させて、リディアは両頬を手で隠した。キョトンとした顔でリディアを見ているアリシアを、プッと吹き出すように笑い、グレイはリディアに手招きをした。
「あとは放っておいてもいいよ。結婚するもしないも、彼らが勝手に決めることだからね」
アリシアを気にしながらグレイのところへ行くと、リディアは積んである一番上の本に手を伸ばした。グレイがその腕をツンツンと突く。
「見てごらん、ここ」
腕を突いた指で、グレイは開いた本の文面を指差した。リディアはその文面をのぞき込む。バックスとアリシアも何事かと顔を寄せてきた。グレイは指先の文章を声に出して読み始める。