レイシャルメモリー 1-04


「神の守護者はその血を守るため族外に子孫を儲けることはない。だが神の意図による例外がある。それを戦士と呼ぶ」
「例外……」
 笑みを含んでつぶやいたバックスに、アリシアが冷たい声を向ける。
「そっち? 神の意図って方に問題があるんでしょ?」
「いや、フォースが聞いたら、また頭抱えそうだなと思って」
 グレイはバックスに口半分の笑みを向けると、視線を本に戻し音読を続ける。
「一族の者は、神の力を利用して神を守護するが、戦士は神が本来の姿を失っている時に、剣などの武器を以て守護するために存在するとされ、……、神が本来の姿を失っている時?」
 グレイは、一部を反復すると顔を上げた。
「なんだそりゃ?」
「そ、そんなこと聞かれても、異常だって事くらいしか……」
 目の合ったリディアは、思わずうろたえてうつむいた。グレイは乾いた笑い声を漏らす。
「ごめん。そりゃ、そうだよなぁ」
「また何気なく、とんでもないことを書いてあるのね」
 ため息混じりで言ったアリシアの言葉に、グレイは肩をすくめた。
「まぁでも、まだ六冊あるうちの一冊目の冒頭だ。こんな風に理解していければ、何が起こっているのかも具体的に分かるかもしれないよ」
 グレイの言葉に、四人はうなずき合った。
 リディアは、自分が少しでも役立てたのだと思うと嬉しかった。安堵感から控え目にホッと息をつくと、アリシアが後ろ盾をするように背中をポンポンと叩き、笑みを向けてくる。リディアもアリシアに微笑みを返した。
 扉にノックの音が響いた。
「サーディ様です」
 続けて聞こえたルーフィスの声に、バックスは駆け寄って扉を開けた。リディアの側に立っていたティオがいきなり駆け出し、サーディとルーフィスの間を通り抜ける。
「な? なんだ?」
 何事かとティオを振り返ったサーディとルーフィスの側まで行き、リディアは外を見た。ティオが空へ向かって両手を広げる。
「ファル!」
 その名前につられて、リディアは空に視線を移した。小さく黒く見えていた影が少しずつ大きくなり、鳥の形に見えてくる。
「ファルだって?!」
 グレイもすぐ後ろまできて、外に目をやった。たくさんの視線の中、ファルは舞い降りてきてティオの頭に止まった。
「ファル、お帰りー」
 ティオは元気にそう言うと、ファルを頭に乗せたまま、なにやらブツブツ話しをしながら戻ってくる。扉のところまで来ると、ティオはリディアを見上げた。
「リディアがフォースを心配しているから付いていったけど、フォースもリディアのこと心配してるって。フォースがリディアのこと聞くから来てみたんだって」

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