レイシャルメモリー 1-05


「なんて聞いてたって?」
 サーディがティオとファルを交互に見ながら尋ねた。ティオがチラッとファルを見ると、ファルは地面に降りてティオを見上げる。
「ええとね、リディアに会いたいって。側に感じたい、抱きしめたい、側にいないのが辛い。今何をしてる? 何を思ってる? 元気でいるか知りたい、って」
 ティオを見ていたリディアは、赤らんだ頬を両手で包み込んでうつむいた。サーディも顔を赤くして、貼り付けたような笑みを浮かべている。
「心配っていうから……」
 サーディが照れているのに気付き、グレイはノドの奥で笑い声をたてた。
「そんな分かり切ったことを聞くから。何年付き合ってんだ、まったく」
「でもホッとしたよ。これで本人と直接連絡が取れるな」
 サーディの言葉に、ティオは目をしばたかせていたが、ハッとしたように目を丸くしてリディアを見上げた。
「タスリルさん呼んでくるよ。ファルが来たら教えてくれって言ってたから」
 リディアがうなずいてみせると、ティオはファルに、休んでて、と言い残して走り出した。ティオの頭にいたファルが部屋へ入ってきて、二階の廊下へと続く階段上部の手すりに飛び移る。ファルは何度か翼をばたつかせると、空気を取り込むように羽を立てて丸くなった。
 全員が部屋に入ると、ルーフィスが扉を閉めて内側に立った。アリシアが、お茶を、と言い残して神殿へと続く廊下へと消える。サーディはアリシアに声をかけそびれたのか、気の抜けたため息をついた。
「こっちは収穫がなくて。あっちの使者は相変わらずリディアさんをよこせってうるさいし、ゼインの所在もつかめないどころか、身元までおかしなことになっちゃって」
 リディアはゼインの名前を聞いて、襲われた時のことを思いだし、顔をしかめた。ゼインが何かとフォースに当たっていたのは、どういう理由からなのかと、疑問も蘇ってくる。グレイも苦々しい顔になり、サーディに不機嫌な視線をむけた。
「身元? 曲がりなりにも騎士だったんだろう」
 その言葉を聞いて、バックスがフンと鼻で笑った。
「家が複雑だとは耳にしたが。父親が死んだ時、祖父さんがいるのに余所で育てられたことを恨んでたとか」
 サーディはポンと手を叩くと、バックスを指差して、大きくうなずいて見せる。
「そう、その祖父さん。ゼインを育てた両親が、その祖父さんを知らないんだ」
 その言葉に、バックスはキョトンとした顔でサーディを見つめる。サーディは苦笑を返した。

1-06へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP