レイシャルメモリー 1-06
「その祖父さんは騎士のあいだでは周知の事実なんだけど、それが誰なのか知っている奴はいないし、騎士になった時の記録でも、身寄りがなくて引き取られたことになってるし」
そう言うとサーディは、お手上げとばかりにぞんざいに両手を広げ、肩をすくめた。
「サーディ様? 確かゼインもクエイド殿が推挙したんでしたよね?」
バックスが疑問を向けると、サーディは間を置かずにうなずく。
「そう。フォースと一緒だったから、よく覚えてるよ。そういえば。フォースと比べるからかな? ゼインはクエイド殿にやたらと気に入られていたような」
「そうなんですか? 城都で最後にお会いした時、大声で喧嘩してらしたのですけど」
リディアの言葉に、サーディは、そうなの? と問い返した。リディアがうなずくとグレイが、それ、と人差し指を向けてくる。
「リディアが降臨を受ける少し前の」
「はい。部屋の中から言い争いをしながらクエイドさんが出てきたんです。とても不機嫌で」
その答えに、グレイは納得したように何度かうなずくと、疑わしげに眉を寄せた。
「あの時の罵声って、クエイド殿とゼインだったんだ。それにしては妙になれなれしい雰囲気だったような」
「仲がいいんだか悪いんだか分からないな。クエイド殿本人にも、聞いてみた方がいいかもしれない」
サーディはバックスと一緒に、ドアのところに立っているルーフィスの所へ行くと、何事か話し始めた。
リディアはグレイに手招きされて、本を乗せた机に戻った。
「とにかく調べよう。一つでも多く知らせてやりたいでしょ」
リディアは、はい、と返事をすると、積んだ本を挟むように、席を一つ空けた隣に座った。
「そうそう、手紙はリディアが書いてね。俺の字だったら逆上されそうだから」
グレイが、本を一冊手に取ったリディアに意味ありげなニヤついた笑みを向けてくる。
「詩の内容と、戦士のことさえ書いてあれば、あとは好きにしていいからね」
その言葉を聞いて、リディアは手紙を書かせて貰える嬉しさに、まっすぐな微笑みを返した。
***
フォースがいた窓のない部屋は、当然日中でも暗い。その部屋の隅にある小さな机でランプの光を頼りに、リディアはフォースへの手紙を書いていた。
タスリルに指定された紙は、長旅に耐えられるように厚くできていた。そのせいか、大きさは手のひら一つと半分くらいしかない。あまり量は書けそうになかった。
リディアはたくさん書き込もうと、息を殺してできるかぎり小さな字を連ねた。書かなくてはならない事をメモした分をすべて書き移すと、それだけで小さな紙の三分の二ほど面積が埋まっている。