レイシャルメモリー 1-10
「これも、書き足した方がいいですね」
まだ少し震えの残るリディアの声に、グレイはうなずいた。
「頼むよ」
そう答えると、グレイはその文章を紙に書き写し始める。サーディは肩をすくめて苦笑した。
「リディアさんが書く場所が無くなっちゃうのは残念だけど、フォースならリディアさんの字ってだけで喜んでそうだ」
「だからリディアに頼んだんだ」
グレイの返した言葉に、サーディはノドの奥で笑い声をたてた。
グレイから書き写した紙を受け取り、リディアは書きかけの手紙と重ねて持った。
「あの、フォースの短剣なんですけど」
話しを切り出しづらそうに言ったリディアに、グレイが向き直る。
「どうしたの? なにかあった?」
「光っているんです。シャイア様の光が……」
リディアの言葉を、グレイはポカンと口を開けて見ていた。それから頭を抱え込む。
「また一つ問題が」
「ごめんなさい」
思わず謝ったリディアに、グレイは苦笑を向けた。
「いや、リディアが謝る事じゃないよ。それより、また頼めるかな」
グレイはそう言うと書庫に続く階段を指差した。
「はい。シャイア様に尋ねてみます」
しっかりと言ったリディアに、グレイは笑みを向けた。
「手紙の続き、書いてきますね」
リディアはグレイの微笑みに向けてそう言うと、階段に向かった。ユリアが呼び止めるように声をかける。
「お茶、運びますか?」
「書き終わったら、いただきにきます。ありがとう」
リディアは精一杯の笑みを見せて、階段を上がった。そのまままっすぐフォースの部屋へ向かい、内側に掛けていたランプを手にして、燭台のある廊下の突きあたりへと向かう。そこでランプに火を入れると、部屋へと入った。
ランプに灯る炎の反射が、置きっぱなしになっている鎧の上で揺れ動いているのが目に入ってくる。その明かりを見て、リディアは、宝飾の鎧のレプリカにまとわりついて鈴のような声で話しかけ、胸のプレートにキスをしていた妖精を思い出した。
あの時は、見ていることすら恥ずかしかった。でも、今は違う。ティオは中身が入っていないと言ったが、それでもいつも身に着けていたその鎧も、抱きしめたいくらい愛おしいと思った。リディアは鎧の側に立ち、今は冷たい金属を、なぞるように触れる。
「私もシャイア様からフォースを取り返したい」
そう言うとリディアは、少しお辞儀をするような格好で、肩のプレートにそっとキスを落とした。