レイシャルメモリー 2-02


 二十九年前。その頃のマクヴァルは、同じ身体の中で現世を生きる細い意識を統べようと躍起になっていた。神を内包している自分の意識こそが、身体を独占するにふさわしいのは間違いない。神の力を以て徹底的に放逐していく勢いに、その意識はなすすべもなく深層へと存在を潜めていった。子を成したという事実だけが、細い意識の抵抗だった。
 子をなしたそのもう一方の意識は、今は感じることもなく、呼び起こされてくることもない。いくらジェイストークが息子だといっても、繋がりは血だけのはずだった。
 それでもマクヴァルは、その息子がレイクスと共にいることに憤りを感じていた。こういった感情が残っているのは、まだこの身体のどこか根底に、もう一方の意識が流れているからなのだろう。そしてその意識が、ジェイストークの存在を息子と認めさせようとしているのだろうか。
「ジェイストーク殿と、お会いになりますか? 何かお話があるのでしたら」
 テグゼルが、黙り込んでいたマクヴァルに声をかけてきた。その訝しげな表情に、マクヴァルは苦笑を返した。
「いや、その必要はない。信仰を外れるようなことがあれば別だが」
「それでしたら心配なさらなくてもよろしいかと。毎日同じ時間に、彼を神殿で見かけておりますので」
 テグゼルの言葉に、マクヴァルは薄い笑みを浮かべた。
「何よりも神の力だ。神の力こそを信じるべきなのだ」
 ジェイストークには、シェイド神への信仰が染みついている。もしもジェイストークがレイクスに何か吹き込まれるようなことがあったとしても、それでシェイド神を裏切るようなことは無いはずだ。
 神の力という言葉に拝礼しているテグゼルを見て、マクヴァルはその思いを強くしていた。

   ***

 ファルがいなくなってから、ソーンはフォースの部屋に来ると最初に窓から外を眺め、その存在を確かめるのが日課になっている。そして今日もソーンは、例外なく窓に駆け寄った。
「今日もいないですね。きっとホントに行ったんだ」
 嬉しそうにそう言うと、ソーンはにこやかな顔で隣に立ったフォースを振り返る。
「でも……」
 ソーンはいつもとは違い、いきなり眉をしかめた。フォースは、どうした? と、質問を向ける。
「どうやって言い聞かせたんですか? 何回言っても全然駄目だったのに」
「どうって……」
 フォースは、何と言っていいのか返答に困った。いくら尋ねられても、リディアに対する想いを連ねた言葉を、そのままソーンに伝えるのははばかられる。ソーンは疑わしげな目をフォースに向けた。

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