レイシャルメモリー 2-03
「まさか怒って追い出したとか? だから言えないんじゃないでしょうね? 帰ってこないかもしれないじゃないですか」
「いや、そうじゃない。……、もしかしてメナウルとかヴァレスとか、地名を教えてなかったかと思って」
フォースの言葉に、ソーンは目を丸くして見入る。
「だからかな。リディアのところに行って欲しいって言ったら、あっさり分かったみたいで」
そう言って苦笑したフォースに、ソーンは乾いた笑い声を立てる。
「なんだ、そうだったんだ」
ため息混じりの言葉に、フォースは肩をすくめた。
「ごめん。もっと早く気付くべきだったんだけど」
「しかたがないですよ。手紙を運んでもらおうと思って育てたんじゃないんだから……、じゃなかった、ないんですから」
下手に話が通じるから、ティオに任せきりにしてしまったのだ。ティオの存在に甘えず、自分でもやるべきだったのだろうとフォースは思っていた。
ソーンは肩をすくめると、窓の外に視線を戻す。
「きっと帰ってきますよね。いつ頃になるんでしょう」
その明るく弾んだ声につられるように、フォースの気が緩んだ。ファルが本当に帰ってきてくれたらいいと思う。
いつの間にかしっかりしてきたソーンの敬語がジェイストークのそれとそっくりなのも、当たり前だと思いながらも可笑しく、いくらかは晴れやかな気持ちにさせてくれた。
窓の外を見ていたソーンが、あ、と声を出す。
「レイクス様、下にジェイストークが。こっちに来ます」
「ホントだ。そんな時間か」
フォースはため息混じりにそう言うと、思い切りノビをした。ソーンがフォースを振り返る。
「今日は手ぶらでしたね」
「そういえばそうだな」
ソーンはフォースに笑みを向けると、もうすぐジェイストークが来るだろうドアへと向かった。フォースはドアの右手前にあるソファーに腰を下ろす。
ここのところジェイストークは、部屋に来るたびにライザナルの地図を持ち込んでいた。ソーンを含めた三人でその地図を囲み、町や村の特徴や気候、産物などを時間つぶしのように話していた。
無論これは必要な知識だろうし、ソーンにとってもいいことに違いない。どっちにしても暇なので、フォースは聞いたことをそのまま覚えるように努力していた。
「ジェイストークです」
その声と共に、ドアにノックの音がした。ソーンがドアを開けると、ソーンの言った通り、何も持っていないジェイストークが入ってくる。