レイシャルメモリー 2-04
「今日は地図は無しか。なんの用だ?」
フォースの言いように、ジェイストークは肩をすくめて微笑んだ。
「地理はだいたい覚えていただけましたので、今度はライザナルの行政を覚えてもらいます」
「行政……」
フォースはそこだけ繰り返すと、ため息をついた。
「こんなかったるいことをしていて、よく飽きないな」
「私は嬉しいですよ。なにせ、なんでもサクッと覚えてくださって。あなたがこんなに従順だと気味が悪いくらいです」
気味が悪くなるほど逆らったことがあるかと思いながら、フォースはフッと空気で笑う。
「ライザナルのことを知りたくて来たんだ。目的が同じってだけで、別に従順にしてるワケじゃない」
「どっちでもいいですよ。じゃあ今日は一年の主な日程から。ソーンもいらっしゃい」
ジェイストークは、フォースが腰掛けているその向かい側に落ち着いた。ソーンがフォースの隣に座る。まるで観光地にでもいるようなほのぼのとした雰囲気に、フォースの感情は逆に苛立ってきた。
「それよりシェイド神のことを教えろよ。マクヴァルとのことはどうなった?」
「今日は一年の主な日程から」
「おい」
同じ話しを繰り返したジェイストークに、フォースは眉根を寄せた。ジェイストークは一つ息をつくと、ゆっくりと口を開く。
「やはり、一番聞きたいのはシェイド神のことなんですね」
「それは何度も言っているだろう」
怒りを抑えたフォースの言葉に、ジェイストークは軽くだかハッキリと頭を下げた。
「ですが、今は無理です」
「だからどうしてだ? 教えろよ。シェイド神のことだって、俺が知らないままでは困るんだろう?」
「ええ。困ります」
ジェイストークは相変わらず頭を下げたまま、静かな口調で答える。フォースは、怒らせようと思っても全然様子の変わらないジェイストークに、思わずため息をついた。
「第一コレが原因で、俺もそっちも理解できなくて困っているんだ。だったら先にやってくれても」
「民間の教育課程と違うというのは、レイクス様にもおわかりでしょう?」
そう言うとジェイストークはソーンに向き直り、幸運なんですよ、と笑顔を向けている。
王族なのだと改めて突きつけられ、フォースは唇を噛みしめた。だが、民間と違うのは充分に理解できる。
「一般的なことは私で事足りますが、専門のことは各部の人間がお教えします。マクヴァル殿が神殿の、テグゼル殿が軍部、デリック殿が諜報部のトップです。マクヴァル殿はまだいい返事をくださらないですから、一番最後になるでしょう」
「だけど、そんなことを言っていたら、一生教えては貰えないかもな」
フォースがため息と共に吐き出した言葉に、ジェイストークは視線を据えた。