レイシャルメモリー 2-05
「いいえ。このまま一年経ってしまったら、状況が変わるんですよ」
フォースは表情を凍りつかせた。一年先にあるのは、リディアの拉致の計画だ。フォースの深刻な顔に、ジェイストークは慌てて両手のひらを向ける。
「あ、誤解なさらないでください。それを望んでいるわけではありません。正直、どこをどうすればそういう事態から逃れられるのか、考えあぐねているんです」
この状態を抜け出さない限りは、一年という期間の後、リディアの拉致は実行されてしまうだろう。
リディアの護衛にはルーフィスが就いている。もちろん簡単に拉致されてしまうとは思っていない。だが計画が実行に移されたら、メナウルにどれだけの被害が及ぶかも想像がつかないのだ。とにかくそれまでに、どうにかしなくてはならない。
ジェイストークは、黙り込んだフォースに苦笑を向けてくる。
「ある程度、できれば粘るというほどの期間を置かずに、レイクス様が直接リディア様を連れてこられるのがいいかとは思います」
ジェイストークが言うのは拉致ではない。確かにメナウルに被害を及ぼすことはないだろうが、リディアを危険にさらすことになる。
「それはリスクが大きすぎる。巫女である限り、狙われ続けてしまうのに」
「降臨はあらかじめ解いてしまわれるといいでしょう」
その言葉に面食らい、フォースは訝しげにジェイストークを見やった。
「前に駄目だといったのはジェイだぞ? どうして今になってそんなことを」
「陛下には、レイクス様がメナウルに戻られてしまうより、リディア様を后にされることを納得していただく方が、よほど平易かと。他に案が思いつかないというのもあるのですが」
フォースはもともと最後の手段として、降臨が解けた後にリディアを連れてこようと思っていた。だが、状況は変わっていないのにジェイストークの言っていることが、いつのまにか正反対になっている。何に起因した変化なのかと疑いたくなり、フォースはジェイストークの様子を観察するように見つめた。それに気付いたのか、ジェイストークは小さくため息をつく。
「他にも一つ理由があるんです。あちらとの連絡を取り合ううちに、どこからか介入されたとの報告をナルエスから受けておりまして」
「介入?」
「ええ。こちらからは何も言っていないはずの返答があったんです。リディア様は、文書ではなくレイクス様ご本人が迎えにいらっしゃらない限り、メナウルを離れることはありません、と」
その言葉に、フォースは眉を寄せた。誰かがもう既にリディアを拉致しようと動いているのだ。
「現在捜査中です。今は文書だけですが、行動に出られる前に、なんとかします」
頼むよ、と、フォースは難しい顔つきで返事をした。