レイシャルメモリー 2-06
現在停戦状態とはいえ、戦が続いている状態でリディアの降臨を解いて連れてくるということは、一年経てばメナウルにシャイア神のいない時期の戦を強いることになる。それを皇太子の立場で実行するのは、メナウルと敵対すると宣言するのに等しい。
いくらリディアを傷付けたくないからそうしたとしても、その事実は間違いなくリディアを苦しめてしまうだろう。どこをどうするにしても、戦はあってはならない。だが、戦をやめさせるためには、シェイド神と話しをしてクロフォードを説き伏せることが、どうしても必要だ。
何をどう考えても、結局はここに戻ってきてしまう。戦があっては駄目なのだ。フォースは大きく吸い込んだ息を全部吐き出すくらいの、盛大なため息をついた。
ジェイストークがフォースの顔をのぞき込む。
「サッサと実行なさいますか?」
「え? いきなり何言って」
「違うんですか?」
ジェイストークの言葉を、最初フォースは冗談かと思ったが、その顔を見る限りそうではないらしい。
「会いたいけど、今はまだメナウルにいる方が安全だ。できないよ」
フォースが首を横に振ると、ジェイストークは、そうですか、とさも残念そうに肩を落とす。
フォースは、ジェイストークがどうしてリディアを連れて来ることに一生懸命なのか、ひどく不思議に思った。自分を皇帝にしたいがために、要望を聞き入れようと言うのか。恩人であるリディアを傷つけるのは忍びないと思ってでもいるのか。そのどちらも、ここまで熱心になる理由とは、少し違う気がする。
「でも、考えておいてくださいね。今はそうかもしれませんが、一年経ってしまったらどうなるか分かりません」
ジェイストークの言葉に、考えておくよ、と返し、フォースは苦笑した。ジェイストークに対して疑いを持ってしまったことを、少し寂しく感じる。
「リディアのことは戦をなんとかした後にしたい。母のことがあったんだ、リディアのことも戦のことも、必ず分かってもらえると思ってる。甘いと思うか?」
「いえ。シェイド神のことがなければ、レイクス様がこちらに帰られた時点で戦は終わっているかもしれません。陛下はレイクス様を本当に大切に思っておられます。羨ましいですよ」
ジェイストークは柔らかな笑顔を浮かべているが、フォースはシェイド神の存在をさらに重く感じた。クロフォードとなら話すことはできるだろうが、それだけでシェイド神に話しが届くとは思えない。
だが。戦士よ、と言う声は、間違いなく自分にかけられたモノだ。人を介さずに話ができるのなら、それを狙うのが一番かもしれない。このままマクヴァルと会えるように頼み続け、それとは別に直接シェイド神に話しかけ続けてみようとフォースは思った。