レイシャルメモリー 2-07
ソーンが訝しげな顔で、ジェイストークの顔を見つめる。
「ジェイストークのお父さんとお母さんって」
フォースは慌ててソーンを止めた。
「駄目だよ。いきなりそんなこと聞くモノじゃない」
「いえ、かまいません。遠慮なさらずとも。私が羨ましいなどと言ったからですよね」
ジェイストークはソーンに微笑んでみせると、フォースに向き直った。
「とは言っても、母は亡くなっていますし、父はいないも同然ですから、あまり聞いて気持ちのいいモノではないと思いますが」
「それじゃ似たような……」
そこまで言ってから、フォースの脳裏にルーフィスとクロフォードが浮かんだ。
「って、違うか。俺には父は二人いるみたいだし」
「陛下を認めてくださるんですね」
ジェイストークの声が明るく響く。フォースはその声を押しとどめるように、思わず両手のひらをジェイストークに向けた。
「あ、いや。事実ってだけで気持ちは伴ってないんだけど」
「いえ、それでも嬉しいです。陛下も喜びますよ」
コン、とドアが音を立て、フォースは振り向いた。その向こうであと二回、ゆっくりと間隔を開けてドアがなる。
「噂をすれば、ですね」
そう言いながらジェイストークはドアへと進んだ。ソーンは慌ててジェイストークを追い、フォースはその場に立ち上がって身体をドアに向ける。
ジェイストークがドアを開けると、クロフォードが入ってきた。その後ろにいたアルトスがドアを閉める。ジェイストークは隣に立ったソーンを促し、一歩下がって頭を下げた。
「この部屋は久しぶりだ」
クロフォードはまっすぐフォースの側にまで来て真正面から向き合い、フォースの右腕に手を添えた。左の同じ場所にリディアの布を巻いていあることを思いだし、左腕でなくてよかったとホッとする。フォースは左側を避けるように身体を横に向けた。
「お前は本当によくエレンに似ている」
クロフォードはフォースの右腕をつかんで引くと、顔を上げたフォースの瞳を身体を寄せてのぞき込んだ。フォースがその視線に耐えられずに目を逸らすと、クロフォードはフォースを抱き留めようと手を伸ばす。
「な?! 何するんです、もうそんな歳じゃ」
腕から逃げ出したフォースに、クロフォードは寂しげに眉を寄せた。
「いくつになろうとも、お前は私の息子だ」
「そんなことを言われても……」
当惑しているフォースに、ジェイストークが苦笑を向ける。
「レイクス様、ライザナルの家族間では、わりと普段からそういう挨拶をするんです」
「でも俺には普通じゃない。いくら命令でも、気持ちを納得させるには時間が」
「もうよい」
フォースとジェイストークは、その言葉に視線を向けた。安堵と悔恨の入り交じった気持ちが、フォースの中でうごめく。クロフォードはゆっくりと一つため息をついて、口を開いた。