レイシャルメモリー 2-08
「もうよい。このようなことをそなたに命令などせん。謁見の間では、逃げずにいてくれたのにな」
「あ、あの時は、驚いて硬直して……。それにマクヴァルが薄ら笑いを浮かべて見ていやがるし。あ」
フォースは思わず怒っていないだろうかとジェイストークを見やってから、頭を下げる。
「無礼な物言い、申し訳ありません」
「マクヴァル殿も、もう少し納得のいく説明をしてくれたらいいのだがな」
そう言うとクロフォードは、ほんの僅かの苦笑を浮かべた。ジェイストークは何を考えているのか、いつもの笑みが張り付けたモノのように見える。
「どうかマクヴァル殿に会わせてください。直接シェイド神と話しをさせてください」
人を介さずにシェイド神に話しかけるにしても、今まで言っていたことをいきなりやめるわけにはいかない。フォースは同じ要望を繰り返した。
「巫女を差し出してくれぬ限りは無理だ。今、神の機嫌を損ねるようなことは、お前のためにもできないのだよ」
クロフォードからは、やはりフォースの思った通りの答えが返ってきた。何を聞いても答えは変わらないだろうと思いながら、フォースは話しを続ける。
「もし本当にシェイド神の意志で巫女を欲しているのなら、直接神から聞きたいのです」
「信頼してはもらえないか?」
「シェイド神を疑ってはいません。信頼できないのはマクヴァル殿だけです。なぜ一瞬で解けるはずの誤解を、解いてくださらないのか」
フォースの言葉に、クロフォードは考え込むように顔をしかめ、うむ、とうなずく。
「確かに、信仰を教える立場なら、会って話しをしてもらいたいとは思うのだが」
クロフォードは眉を寄せた顔を上げると、ジェイストークを見やった。
「ジェイストーク、そなたからもマクヴァル殿に話してみてはくれまいか?」
その言葉がジェイストークに向けられたことが、フォースにはひどく意外だった。ジェイストークとマクヴァルに何か関係があるとは、思っても見なかったのだ。
「それはかまいませんが……。たぶん私がなにを言っても、今は……」
ジェイストークの返答も、フォースには思いも寄らないモノだった。今は、というのはどういう事か。今でなければ、なんとかなるというのか。
「仰せの通りに」
改めてそう言い替えると、ジェイストークは頭を下げた。安心したのか、クロフォードが小さく息をつく。
「本当なら、お前がいなかった十八年を私に返して欲しいのだ。メナウルでの信仰も何もかもすべて忘れて、ここで生きて欲しいのだよ」
その言葉でフォースの脳裏を過去の出来事が一気によぎった。ドナの事件、母のこと、騎士になるための努力、リディアのこと。