レイシャルメモリー 2-09


「私の十八年は、あなたにとって意味はないと」
「そうでは……」
 否定しようとしたクロフォードの言葉が途切れる。否定しきれないのは当然だとフォースは思った。どんな風に十八年を過ごしてきたのかなど、クロフォードには想像もつかないだろう。
 それでも、もしかしたら自分の十八年を認めてくれるのではないかとの期待もあった。クロフォードと血が繋がっているからだろうか。でも、そうだとしたら自分もクロフォードと血が繋がっているのだ、やはりそれだけですべてを理解することはできない。
「あなたには腹立たしいだけかもしれないですが、私はメナウルで育ち、学び、生きてきたんです。もう戻れません」
 これだけは事実だ。クロフォードが認めようが否定しようが、変わることではない。クロフォードの表情が悲しげに歪んだ。
「私から逃げるつもりか?」
「いえ。あなたに許しをいただくまではここを動かないつもりです。戦をやめると言っていただけないと、ここに来た意味もないですから」
 フォースがしっかりと口にすると、クロフォードは安心したように肩をおろした。その仕草がフォースにはいとわしく感じ、思わず視線を逸らす。
「地下神殿に移してから、まだエレンの墓に参っていなかったな。行くか?」
 その問いに、ドナの村で見た空の棺を思い出し、フォースは首を横に振った。墓を移したことを忘れていたかった。二度も母を葬るなど、あって欲しくなかったと思う。
「では、また来る」
 クロフォードの言葉に、フォースはそっぽを向いたままぶっきらぼうに、どうぞ、とだけ答えた。
「邪魔をしてすまなかったな」
 そう言うと、クロフォードは部屋を出て行った。
 ドアが閉まり気配が遠ざかると、ソーンが声を立てて盛大なため息をついた。それを聞いたジェイストークが、可笑しそうにノドの奥で笑う。
「笑わないでよ。どうしていいか分からなくて、すごく怖かったんだから」
「でも、良かったですよ。なにも言わずにおとなしくしていてくれて」
 ソーンにそう答えると、ジェイストークはフォースに向き直った。
「大丈夫ですか?」
「何がだ」
 短く問い返したフォースに、ジェイストークは少し考えるように首をかしげる。
「陛下はレイクス様を否定するほど、レイクス様をご存じありませんよ」
 ジェイストークが自分に向けた言葉に、フォースは顔をしかめた。
「そうだな。でも、知ったら分かってくれるんだろうか。俺にはそうは思えなくて」

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