レイシャルメモリー 2-10
どうして十八年も積み重ねた月日を返せと言えるのか。レイクスという人間の何もかもすべてを、クロフォード自身のモノだと思っているのだろうか。
「俺が今こうやって時間を奪われているから、クロフォードの気持ちは分かる。分かるんだ。だけど……」
クロフォードは母の存在すら忘れることができるのか。だからすべて忘れて欲しいなんて言えるのだろうか。
これだけ相容れないと思う人と、理解し合うのは可能なのだろうか。
こんなことで腹が立ったり寂しかったりするのは自分自身がクロフォードを親だと認めているからなのだろう。そう思うことが、またフォースには辛かった。
「一度おやすみになりますか?」
ジェイストークの心配げな声に、フォースは苦笑しながらうなずいた。ジェイストークに手を取られ、ソーンは心配げに歪めた顔でフォースを振り返り、部屋を後にした。笑顔にすらなれない自分に、ため息をつく。
ライザナルに来たのは間違いだったのだろうか。自分は自分のままでいて、足場だけ固めたいなんてのは無理なのかもしれない。それでも、ライザナルに来たからには、やらなければならないことがある。
ふと窓の外が違った景色に見えた。窓に向かいかけて、向かい側の屋根にファルがいることに気付く。
フォースはこっちへ来るようにと、慌てて手で合図をした。羽を広げ、こちらに飛んできて窓枠にとまったファルに、部屋へ入るよう指示する。
ファルが床に降りてから、ファルを見られなかったか確認するために窓の下を見ると、ちょうどジェイストークとソーンが塔から出てきたのが見えた。フォースは見上げてくるソーンに手を振って見せる。
「レイクス様ぁ!」
ソーンは笑顔になって元気に手を振り返すと、ジェイストークと城の中へと消えていった。
フォースは急いでファルの所へ戻ると、ファルの顔をまじまじと眺めた。
「ファル、ホントにリディアの所に行ってきたのか?」
ファルはフォースの言葉を無視するように身体を横に向け、右の足をフォースの方へ伸ばしてきた。そこに細く長い足輪が付けられていて、折りたたんだ紙の端がのぞいている。
フォースはファルの足に直接触れないように気をつけながら、足輪を押さえて紙を引き抜いた。山になった部分が少し擦れて毛羽立っているので、破けないよう慎重に開く。
びっしり書かれた小さな文字がリディアのモノだと、フォースにはすぐに分かった。最後に書かれている、少し斜めに書かれた文字に目がとまる。
――必要ならば私も行きます――
その字面を見るだけで、愛しさがこみ上げてきた。隅の方には更に小さな字で、ゼインがまだ見つかっていないことも書かれている。