レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部4章 凝結と弛緩
3. 端緒 01


 広く薄暗い神殿の祭壇中央に、黒い石でできた大きな像が据えられている。像は背に大きな翼を広げて両腕を上に突き出し、炎の入った球形のランプを掲げていた。
「珍しいと思えば。お前までその話か」
 像と向き合っていたマクヴァルが振り返り、言葉を待っているジェイストークに視線を投げた。
「レイクス様は私のせいでシェイド神と話ができないと思っておられるようだが、何度も言っているように、そうではない。シェイド神は降臨に私を選んだのだよ。シェイド神はそれを認めない事に辟易されているのだ」
「では、それをシェイド神の口から直接レイクス様に、お伝えいただきたいのですが」
 ジェイストークの言葉に、マクヴァルは小さくため息をついた。
「シェイド神がレイクス様と話すのは、巫女の問題が済んでからだ。すべては私を認めることから始まるのだよ」
 巫女という言葉で、ジェイストークの顔が歪んだ。マクヴァルは二、三歩分距離を詰める。
「お前も、シェイド神の望みよりも、レイクス様との約束が大事だというのか?」
「いえ、そのような。ただ不思議なのです。長い年月、他国の巫女の話しは一度もお聞かせくださらなかったのに、近年になっていきなり成婚の儀などと」
 かしこまっているジェイストークに、マクヴァルは眉根を寄せた。
「シェイド神に何かお考えがあってのことだろう。意味もなくそのようなことが行われているわけは無かろう」
 その言葉にも表情を変えないジェイストークに、マクヴァルはため息をつく。
「まだ何かあるのか?」
「女性達のあいだでは、シェイド神は冷たい神だと言う者もおります。確かに、リオーネ様のような立場の方にはお辛いかと。巫女に対する同情もありますし」
「なにを言われようとかまわんよ。私はこの信仰心故、シェイド神が降臨されたと思っている。ただ、信じるだけだ」
 マクヴァルは、ジェイストークの肩にポンと手を置くと、難しい顔を上げたジェイストークに柔らかな笑みを見せた。

   ***

 フォースのいるその部屋は、日が落ちた後、ランプで部屋の明るさを保っている。いつもならフォースは、一つだけに小さく明かりを灯し、ベッド側の棚に置く。一人の時はそれで充分だし、一部がガラスでできている窓を閉めたまま外を眺めるには、明かりが邪魔にならないので都合がよかった。
 だが今日は、幾つかのランプに明かりを灯し、ランプの一つはフォースとクロフォードの間にあるテーブルの上に置かれ、湯気を立てるお茶のカップを照らしていた。
 窓もわずかに開けてあった。ほんの少しだけ緩やかに吹き込んでくる外の空気が、ソファーに座った身体をなでるように通り過ぎ、部屋の中を巡ってどこからか抜けていく。

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