レイシャルメモリー 3-03


「伝承の通りになったというわけだ」
 クロフォードは目を開くと、まっすぐな視線をフォースに向けてくる。
「知っているのか。そうだな、お前も神の守護者なのだから。私が知ったのは最近になってからなんだよ。まだ一部だが」
「一部……? 今の部分ですか?」
 クロフォードはうなずくと、フォースに期待を持った目を向けた。フォースはその視線をまっすぐ受ける。
「火に地の報謝落つ。風に地の命届かず。地の青き剣水に落つ。水に火の粉飛び、火に風の影落つ。風の意志剣形成し、青き光放たん。その意志を以て、風の影裂かん」
 フォースは、一つ一つの言葉を丁寧に発音した。
 暗唱しながら、記憶の中で詩をささやく声と、シェイド神が呼びかけてきた声が重なり、その二つは同じ声だったと気付く。昔聞かされていたこの詩は、シェイド神自らがフォースの記憶に擦り込んだのだろう。
 フォースは気持ちを落ち着かせるために、ゆっくり息を吐いた。
「私がまだここにいた時、シェイド神に教わった詩です」
「なんだと?」
 クロフォードは身体を乗り出して、訝しげに目を細める。
「まさかそのようなことが……。お前がシェイド神の側にいたのは、この城にいた数ヶ月だけだぞ?」
 シェイド神の声を聞けたのは、赤ん坊だった数ヶ月しかないのだ、自分でも不思議だとフォースは思った。
「ライザナルへ来てから、シェイド神の声はほんの少し耳にしただけです。でも確かに聞き覚えがあるんです」
「マクヴァル殿は、シェイド神はお前と話しなどしていないと言っていたが」
 難しい顔つきで、クロフォードはフォースに尋ねた。フォースはクロフォードの疑わしげな視線を、まっすぐ見返す。
「嘘は言っていません。シェイド神の声が聞こえてこないのに、マクヴァル殿がシェイド神と会話をしているなどと、それこそが嘘なんです」
「まさか……」
「私は神の守護者の血をひいています。シャイア神の声も聞こえたし、同じようにシェイド神の声も聞こえます。お願いです、幾らかでも疑いを持ってマクヴァル殿を見てください」
 フォースを見つめたまま少し間を置き、クロフォードは曖昧にうなずいた。
「マクヴァル殿は、口頭でのみ伝えられるシェイド神の教典を、三歳にして暗唱した方だ。それゆえ、シェイド神の申し子とまで言われているのだよ」
 クロフォードの言葉に、フォースは落胆した。何をどう伝えても、分かってもらうことは叶わないように思えてくる。
「ただ、お前が暗唱した詩が本物だと言うことは分かる。最初の、火に地の報謝落つ。これはエレンを連れ帰った時、その場にいた者しか知らぬ事実だ。エレンは報謝、つまりは神に捧げられた生け贄だったのだよ」

3-04へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP