レイシャルメモリー 3-05


 フォースがドアを閉めようとするのを、クロフォードは不安げな顔で押しとどめる。
「お前が危険だ」
「は? あ……」
 フォースはそこで初めて、クロフォードは自分を心配しているのだと気付いた。
「私は大丈夫です」
 フォースは笑みを浮かべてクロゼットのドアを閉めた。ベッドの横に立て掛けてあった剣を手にし、反対側にある階段へと続くドアに身を寄せる。
 先ほど外から聞こえた剣を抜いた音で、短剣が混ざっていることは分かっている。しかも、ほとんど同時に聞こえたのは、切っ先を石の壁にぶつけた音だ、長剣になれていないのだろう。
 夜になると二つ下のドア、ソーンの部屋の前に警備兵がいるはずだが、なんの物音もしないまま気配が通り過ぎてくる。
 部屋に押し入られてしまったら、一度に複数と剣を合わせなければならなくなるし、奥のクロゼットも気にしなくてはならない。それくらいならと、フォースは部屋を出てドアを閉じ、その前に立った。
 階段を上がってきた長剣を持っている体格のいい男と目が合う。あまり広くない階段は、軽く手を広げたその男でふさがり、後ろには四人が見え隠れしている。誰一人、防具は一つも付けていない。姿の見えない警備の兵士達が手引きしたのだろう。
「クロフォードを出せっ。ここにいるんだろう!」
 ある程度間を空けたまま、一番前にいる男が声を張り上げた。剣を前に突き出して、ジリジリと階段を上ってくる。その男のすぐ後ろ、左側には短剣を持った男が身体を小さくして構えているようだ。
 フォースは左手で剣の鞘を握ったまま、階段の二、三段下にいる先頭の男に視線を返した。
「なんの用です?」
「すっとぼけた野郎だな。クロフォードを出せと言ったんだっ!」
 先頭の男が剣を振り上げ、脇にできた隙間からすぐ後ろにいた男が飛び出してきた。フォースは振り下ろされた剣を鞘で受け、突き出された短剣は身体をひねって避け、胸を蹴り返す。バランスを崩した男は、後ろにいた一人を巻き込んで、階段を落ちていった。
 もう一度振り下ろされた剣を受け、やはり剣技は素人だとフォースは思った。いくら力があっても、ただ振り回すだけで剣が重くなる訳ではない。
「ここを通せっ。クロフォードを斬ってからでないと死ねない。ここは愛人の部屋なんだろう? お前がその愛人か?!」
「は? な、なに言ってんだ」
 思い切り気が抜けそうになり、フォースは受けていた剣から鞘をどけた。勢い余って振り下ろされた剣の刃を足で倒し、剣身の上に全体重をかけて立つ。
「ど、どきやがれ! レイクス様が継いでくだされば、ライザナルは必ずやいい国になるんだっ。お前を斬って先に進む!!」
「はぁ?」

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