レイシャルメモリー 3-06
フォースが踏んでいる剣を、男は闇雲に引っ張っている。その男の後頭部を、フォースはまじまじと見つめた。
「バカばっかり並べてるんじゃない、俺がそのレイクスだ」
階段に足をかけて引っ張る体制を整えた男が、口をあんぐり開けてフォースを見上げる。
「あ、あんたが……?」
後ろにいる二人も、ポカンとした顔を並べている。男達がなにも知らないことに、フォースはイヤな予感がして顔を歪めた。
階段の下から、兵士が姿を現した。ソーンを連れている。
「兄ちゃ……」
兵士はソーンの口を慌てて押さえると、話しができないように腕で口をふさいで抱え込んだ。
「ソーン?!」
フォースが顔色を変えたのを見て、兵士は薄ら笑いを浮かべると、ソーンの首に短剣を突きつける。
「そこの。動くなよ。抵抗したら、お前の弟が死ぬぞ」
兵士がフォースに掛けた声に、ソーンが腕の中で暴れ出した。声を出しているのだが、口をふさがれているので言葉になっていない。
「サッサとそいつを斬れ!」
その叫び声に、我に返ったように男達が兵士を振り返る。
「だ、だけど、この人はレイクス様なんじゃ」
「レイクス様にこんな弟がいるか? ハッタリに決まって、痛っ!」
腕をかじられ、兵士はソーンを殴り飛ばした。ソーンがすぐ側の壁に激突する。
その瞬間、フォースは目の前にある男の背中を突き飛ばして横をすり抜けた。下にいた男の首筋に剣の柄をたたき込み、振り向いたもう一人の横面に鞘のままの剣を食らわす。
剣を抜いた兵士とソーンの間に入ったフォースの視界に、駆けつけてきたアルトスが見えた。フォースが兵士の振るった剣を鞘で受けると同時に、アルトスが兵士の向こうで剣を横に薙ぐ。目を見開いて声もなくくずおれる身体を隠すように、フォースはソーンに向き直って抱きしめた。
「レイクス様、ごめんなさい。こんな時に兄ちゃんなんて……」
ソーンの震える声に、フォースは左手に剣を持ったまま、右手でソーンの肩をつかんで顔をのぞき込む。
「そんなことはいい。大丈夫か?」
口の脇の晴れた部分を気にして尋ねたフォースに、ソーンはしっかりとうなずく。
「ちょっと痛かっただけです。平気」
フォースはホッと息をついて、ソーンの頬をなでた。
アルトスの後ろから階段を上がってきた十数人の兵士が、放心している男達を拘束にかかった。階段下に倒れている二人も運び出していく。
「引っ立てて処刑だ」
アルトスの声に、兵士達は気を失っている男の頭と足を持ち上げ、頭を抱えてうずくまっていた男を立たせて階段を下りはじめた。残った大柄の男の左右と後ろも固めている。
フォースは眉を寄せて図体のでかい男を見上げた。男は嘲笑を浮かべると、フォースに真剣な視線を向ける。