レイシャルメモリー 3-07


「ライザナルを、頼みます」
 その言葉で、フォースは自分の血が沸騰したように感じた。
「勝手なこと言いやがって! だいたい一人でなにができるってんだ! あんた達みたいな一人一人が大事なのに、それをっ。なんて無駄なことを……」
 だんだんいきどおってくる気持ちに、言葉が詰まる。男はにこやかに眺めていたが、フォースが口をつぐむと、満面の笑みを浮かべて頭を下げた。
「頼みます」
 フォースは表情を歪め、その男から目をそらして壁を向いた。男と兵士達が階段を下りる音が遠ざかっていく。
「バカやろ、だまされてんじゃない……」
 フォースが剣の鞘を握りしめてつぶやいた言葉に、アルトスが冷ややかな目を向ける。
「そんなモノは単なる理想でしかない。個々の力など、取るに足らん」
「でも、だからって都合よく無視なんてできるかっ。一人一人の思いがないと、国も時代も動かない」
 フォースはアルトスの変わらない表情を見て、苦々しげに顔を歪めた。アルトスがノドの奥でクッと笑う。
「若いな」
「てめぇが年寄りなんだろうがっ」
 そう言ってそっぽを向いたフォースの袖を引っ張り、ソーンがフォースの部屋を指差す。
「ねぇ、陛下がいるの?」
「あ! 忘れてた!」
 フォースは数段降りていた階段を駆け上がって部屋に入った。そのままクロゼットまでまっすぐ進み、間隔の短いノックをする。
「開けます」
 中に声を掛けて急いでドアを引くと、クロフォードはドアのすぐ側に、硬い表情で立っていた。
「すみません、遅くなりました」
 苦笑して軽く頭を下げたフォースを、クロフォードが掻き抱いた。
「無事でよかった」
「え? あ、あの……」
 逃げるに逃げられず、フォースはうろたえた。クロフォードはお構いなしに、腕に力を込める。
「声は聞こえていたのだよ。ありがとう」
 聞こえていたのなら、兵士にだまされたらしい男達を助けてはくれないだろうかと、フォースは思った。だが、ドナでエレンを斬ったカイラムの、事件とは関係ない息子までをも斬ろうとしたアルトスが頭をよぎる。それでなくても彼らはクロフォードを暗殺しようとした罪人なのだ、許してはいけない。
「レイクス?」
 身体の力を抜き、されるがままのフォースに逆に不安を感じたのか、クロフォードはゆっくり身体を離した。
「どうした?」
 暗殺だなど、あの男達のやり方が間違っているのは分かる。だが、命をかけてまで国を良くしようと思うなら、その気持ちはとても強いのだろう。その命を簡単に絶ってしまうのは惜しいと思う。謀反人であることも事実なのだが、そうさせているのは国のやり方なのかもしれない。
「レイクス? 先ほどの刺客のことか?」

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