レイシャルメモリー 3-08
奇麗に言い当てられ、フォースは目を丸くしてクロフォードに視線を向けた。クロフォードは苦笑して見せる。
「お前がライザナルを継ぐと言ってくれれば、私を敵視する彼らの気持ちも少しは治まるんだろうがな」
「いえ、同じです。レクタードを推す刺客に取って代わるだけで……」
しかも失うモノは一緒だ、少しも変わらない。こんなことにかこつけてまで暗に継げと言ってくるクロフォードに、フォースは重いため息をついた。手にしていた剣をもとの場所に立て掛ける。
「陛下はこちらですか?」
その声に、開いたままのドアで見張りをしていたアルトスが、敬礼と共に道を空ける。そこにはテグゼルが立っていた。返礼でその金髪が揺れる。
「テグゼルか。どうした?」
クロフォードの問いかけに、テグゼルは部屋へ一歩だけ入ってひざまずいた。
「騒ぎをお聞きになり、リオーネ様が陛下を案じておられます。自室にてお待ちしているとのことです」
「罪人の処遇など、すべて済んだら行く」
その答えに、テグゼルはかしこまって頭を下げ、部屋を出た。クロフォードは、ドアの脇に立ったテグゼルを見てため息をつく。その聞こえただろうため息を無視したテグゼルは、リオーネの言い付けで来たのかもしれないと、フォースは気の毒に思った。
「一度戻って差し上げてはいかがですか? お会いになれば安心されるでしょうし」
「そうか? そうだな。お前がそう言うのなら」
向けてきた心配げな笑みで、クロフォードがここを動こうとしないのは自分の心配をしていたからだと気付き、フォースは苦笑した。
「また来る」
「はい」
来てくれないと困ると思い、フォースは即答した。肝心の影の話しがまだ途中なのだ。できることなら、マクヴァルのことを考えておいて欲しい。クロフォードは分かっているのかいないのか、フォースに笑みを向けてうなずくと、部屋を出た。
「手当てをしよう」
クロフォードはソーンの手を取ると、驚いた表情のテグゼルを促し、階段を下りていった。
ドアの前まで行って見送ったフォースを見て、あきれたようにアルトスが口を曲げる。
「見送りとは、殊勝な心がけだな」
「なんとでも言え」
フォースはチラッとだけアルトスに視線をやった。アルトスは部屋の前に立って階段を見つめたまま話しを繋ぐ。
「巫女は渡さないとか、まだ反発しているそうじゃないか。神よりも巫女か。成婚の儀さえ受ければ、シェイド神の信頼も受けられるというのに」
「成婚の儀なんて意味はない。だいたい俺のどこが神の子だ。父がマクヴァルだってならまだしも」
そう言ったフォースの脳裏に、ジェイストークが思い浮かんだ。クロフォードがわざわざ名指しで頼み込んだのは、肉親だからかもしれない。