レイシャルメモリー 3-09


 ジェイストークは、父はいないも同然、という言い方をしていた。そしてマクヴァルについては、たぶん私がなにを言っても今は、とも。その二つの言葉を考えると、やはりジェイストークはマクヴァルの息子だと思えてくる。
「自覚が無かろうが、誰が見ても全然そう見えなかろうが、お前は間違いなく神の子だ」
 アルトスの声を鬱陶しく思い、フォースは短く息を吐いた。
 ジェイストークがマクヴァルの息子だと考えると、ジェイストークの色々な思考の揺れも気になってくる。
 ジェイストークは最初、シェイド神の攻撃があるうちはリディアを連れてくるのを延期した方がいいと言っていた。だが、成婚の儀のことになると、シェイド神の攻撃など忘れて、サッサと連れてきた方がと言ってしまうほど嫌悪しているようだ。最近は攻撃があってもいちいち報告していなかったので、それも忘れる原因になっていたかもしれないが。
 神の力での攻撃を信じられず、呪術かもしれないとまで言ってしまうほど信仰心は厚い。だが成婚の儀の存在意義から、神にか宗教にか疑念も抱いている。
 なぜこんな揺れがあるのかをアルトスに聞いたとしても、たぶんジェイストークに筒抜けだろう。それくらいなら直接聞いた方がいい。だがフォースには、それを聞いてどうしたいのかが自分でも分からなかった。
「神の子として責任さえ果たせば、後は誰と一緒にいようがかまわない。幸運だろう?」
 アルトスは、考え込んでいたフォースに問いかけてくる。幸運とはいったい何を差すのだろうと、フォースは不思議に思った。
「その責任のせいで、リディアもニーニアも犠牲になるんだぞ? いいわけないだろ」
「彼女たちが幸せになれるかは、お前の心がけ次第だ」
 アルトスの思いがけない言葉に、フォースは眉を寄せて目を細める。
「これから事故が起こって怪我人が出るのが分かっていても、未然に防ぐ努力はせずに後からどうするかしか考えないのか」
 フォースの冷ややかな声に、アルトスは振り返って顔を突き合わせた。
「バカ言え。それではたとえにもなっていないだろうが。事故ではない。必ず起こることだ」
「必ず? 俺がいなくなるだけで起こらなくなることがか?」
 まっすぐ視線を返したフォースを、アルトスは睨みつけてくる。逃げるかもしれないと思ったのか、フォースが毒を受けて死にかけた時のことを思いだしたのか。
「俺はどうしてもリディアを傷つけたくない。大体リディアが俺を助けてくれたから、お前の処分だってこの程度で済んでいるんだろうが。少しは感謝しろよ」
「巫女は傑出した人物だと思うし、感謝もしている。だが、なにがこの程度だ。散々だ」
 そう言って背を向けたアルトスに、フォースは顔を歪め、口の端だけで冷笑した。
「あぁ、そう。そりゃ俺には願ったり叶ったりだ」

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