レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部4章 凝結と弛緩
4. 表裏 01


 幾分荒い息で呪文の唱読を終え、マクヴァルは顔を歪めた。シェイド神が発した、シャイアの戦士よ、という声が、まだ頭の中に響いている。
「シャイアの、だと?」
 既に契約を済ませているという意味だろうその言葉で、マクヴァルはフォースへの敵対心が増幅してくるのを感じていた。
「ならば、それなりの対処をせねばならんな」
 視線を落とした先の黒曜石でできた鏡を、のぞき込むように見つめた。
 今はマクヴァルの引きつった表情を写し込んでいるその奥には、長い年月をかけてたくさんの命が閉じこめられている。その中には神の守護者の老人も含まれる。
 その老人からこの時のために、呪術で対処法を引き出してあった。今回のことはフォースがシャイアの戦士だったと分かっただけのことだ。何も慌てることはない、前もって考えていた対処を実行に移せばいい。
 詩で影と例えられる自分の存在にとって、敵となりうるのは戦士だけである。実際他の人間は、一人ずつしか対処はできないものの、操るのも殺傷も神の力で自由にできる。
 策を講じなければなるまい。マクヴァルは気持ちを落ち着けようと、一つ大きく息をついた。
 戦士としての契約を破棄させるためには、戦士が身に着けている媒体を処分すればいい。シェイドの戦士にするには、血を身体に入れればいい。それが叶わなかった時は、亡き者にしてしまえばいい。
 神の力を有効に使えば、戦士が持っている媒体を奪うことくらい、なんら難しいことではない。人知れず神の力を使うためには、少し出歩いてもらった方が都合がいいだろう。現在の幽閉されている状態よりは、神の力で操る人間を、怪しまれることなく近づけることができる。
 そしてフォースを自由にすることで、もう一つの利益を得るための準備をも進めることができるのだ。それも目的のためには非常に有意義で重要だ。
 マクヴァルの胸の中、身動きのとれないシェイド神が、ドクン、と鼓動のような抵抗を見せた。だがマクヴァルは、シェイド神の動きが脈の一つを感じただけのように取るに足らないモノに思え、薄い笑みを浮かべる。
 戦士を我がモノにしたら内包する神の力で操り、その一生を駒として有意義に使わせてもらう。
「あなたの戦士にするのですよ。近いうちにもう一人、お仲間も増えます。嬉しいでしょう?」
 胸に手を当て、身体から逃れられないでいるシェイド神に、マクヴァルは勝ち誇ったような笑みを見せた。

   ***

「アレを相手にすると、まったくもってストレスが溜まる」
 フォースを幽閉している塔に向かいながら、アルトスはジェイストークに言った。ジェイストークはノドの奥で笑い声をたてる。
「黙っていればいいのに、言い返すからだ」
「何を話していても、わざわざ逆説を持ち出してくる。言い返したくもなるだろう」

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