レイシャルメモリー 4-04
チラッとだけ振り返ると、ジェイストークは先に立って階段を上りはじめた。アルトスはその背中に声をかける。
「いいのか?」
「いいも悪いも、それで父が困ることはないとハッキリさせたくてね。レイクス様が持っている疑問を晴らしたいのは俺も同じだし。偶然を狙えば、難しいことではないだろう」
前を行くジェイストークの足の運びが、アルトスには軽くなったように見えた。
もしもシェイド神が会うことを避けているのなら、偶然を狙っても会うことは叶わないだろう。何ら支障はない。ならばジェイストークの思うようにやってみればいいと、アルトスは思った。
階段途中にいる見張りの騎士二人と敬礼を交わし、さらに上へ行く。突きあたりのドアの前にも二人の騎士が警備についている。左右に避けた騎士の間から、ジェイストークがドアをノックした。
「ジェイストークです」
少し間があって、どうぞ、と気の抜けた返事が返ってきた。ジェイストークは笑みを浮かべると、ドアを開けて中に入る。アルトスは一瞬迷ったが、結局後に続いた。
フォースはベッドにうつぶせになり、南側の窓の方に顔を向けていた。ジェイストークは部屋の真ん中まで入っていく。
「お疲れでしたら、また後ほど伺いますが」
「いや。かまわない」
フォースは身体を起こし、ベッドの端に座り込む。その時アルトスと目が合ったが、フォースは無視するようにジェイストークへと視線をやった。
「警備、増やしたみたいだな」
「今回の首謀者達は、偶然に配置が揃ってしまったようです。単純ですが、増やせば揃わないですし、余計な話しもできなくなるでしょうから」
ジェイストークの笑みを見て、フォースは顔をしかめ、ホントかよ、と一言つぶやいて視線を落とした。ジェイストークに苦笑を向けられ、アルトスは口を開く。
「首謀者達がお前の暗殺のために、陛下を亡き者にしてお前に王座に就かせようという民を誘い入れたようだ」
「説明されなくても、それくらいは。本気でバカだと思ってんだな」
フォースが返した言葉に、アルトスはフッと鼻で笑って南向きの窓に向かった。背中にフォースの舌打ちが聞こえる。
ジェイストークの、黙っていればいい、という言葉は確かに間違いではないことを、アルトスは最初から理解していた。ただ、それを分かっていてなお、我慢できなくなり口を出してしまうのだ。
ジェイストークはその我慢を分かっているのだろう、話しを遮るように口を開く。
「それとですね。処刑は延期にするとのことでした」
「ホントに?! って、なんだ、延期か」
フォースが本気でそう思っているのかと思うと、アルトスにはため息しか出てこない。
「それだけでも凄い変化ですよ。彼らに話を聞きたいと陛下がおっしゃってまして」
黙って聞いているとイライラしてくる。ストレスが溜まるのは同じだ。