レイシャルメモリー 4-05
ならば関わらないようにと窓の外に意識を向けると、ふと何かが足りないような感覚に襲われた。それがなんだろうと眉根を寄せて首をひねると、おい、と背中にフォースが声をかけてくる。面倒だと思って無視していると、後頭部にバフッと枕が当たった。アルトスは振り返ってその枕を拾い上げ、思い切りフォースを睨みつける。
「なんだ」
アルトスの声に、思わず怒りが含まれた。フォースはひるむことなく、まっすぐ視線を返してくる。
「呼んだら返事くらいしろよ」
「だから最初の用事はなんだと聞いているんだ」
アルトスは、返された言葉を無視して問い返した。トゲのある声に、フォースは顔をしかめる。
「用事なんか無い。部屋に入ってきてのんびり外を眺めてるなんて、いったい何しに来たんだ」
「俺はお前の護衛だぞ。状況を見ておきたい時だってある」
「地面のない空間のか」
「そうだ」
言い切ったアルトスに、フォースは冷ややかな視線を向けて冷笑した。アルトスが枕をベッドに戻すと、フォースは視線をそらすようにフッとそっぽを向く。ジェイストークは苦笑して肩をすくめた。
「よろしいですか? もう一つ大切なご報告があるんです」
ジェイストークの言葉に、フォースは窓の外に視線を向けたまま、どうぞ、と簡単に返事をした。その声を聞きながらアルトスはドアの側へと移動し、その横の壁に背を預ける。
「城内に限っては、ご自由に出歩かれても良いとのことです」
その言葉にフォースは驚いて振り返り、ジェイストークをまじまじと見つめる。
「もういいのか?」
「一人で閉じこめておくより、たくさんの方と交流され、ライザナルのことを知っていただくのが近道ではないかと」
「トラブルの解決?」
フォースはフッと吹き出すように笑った。
「割と甘いんだな」
「レイクス様が大切なんですよ。この事態に陛下は、レイクス様に守られたことや、レイクス様を推す人間がいるということを喜んでいらっしゃるくらいですから」
笑みを崩さないジェイストークに、フォースが苦笑を向ける。
「やっぱりバカじゃないか」
ジェイストークは、口を開きかけたアルトスに一瞬だけ視線を向けて制止すると、フォースに向き直った。
「レイクス様。そのようなことをおっしゃってはいけません。それとも陛下の愛情に照れていらっしゃるんですか?」
「は? な、なに言ってんだ」
自分が言い返したのではなくても、フォースがうろたえているのを見るのは、アルトスには快感に思えた。
これだけクロフォードに愛されていながら、フォースは未だに困惑を隠せずにいる。素直に受け入れることができないのがシェイド神との関係のせいだとしたら、こんなに馬鹿馬鹿しいことはないと思う。