レイシャルメモリー 4-06
「注意事項が一つだけあります。どんなときも必ず騎士を一人連れ歩いてくださいね」
微笑んでいたジェイストークが、再び口を開いた。フォースはため息をつく。
「面倒だな」
「お前の腕じゃ足りない。逃げる可能性もあるしな」
アルトス自身が思ってもいなかった、逃げるという言葉が口をついて出た。フォースの目が鋭さを増す。
「剣の相手をしろよ」
そう返ってくるだろうと思っていた台詞そのままの言葉を聞き、アルトスは笑みを浮かべてうなずく。
「ついでに賭をしよう。俺が負けたらこれから先何度でも付き合ってやる。お前が負けたら、首から提げているそのペンタグラムをよこせ」
「は? やだ。断る」
一瞬キョトンとしたフォースの顔が、ムッとしたように歪められる。その反応に、アルトスも顔をしかめた。
「なにが、やだ、だ。お前には剣を持つ誇りというモノはないのか」
「そんなモノよりコレの方がずっと大事だ」
フォースは服の上からペンタグラムを包むように押さえる。アルトスは、胸に溜まっていた空気を、一気に全部吐き出した。
「バカかお前は」
その反応を見て、フォースは自嘲するようにフンッと鼻を鳴らす。
「悪かったな。あんたの陛下に似てて」
「なにっ?! 剣を取って外へ出ろ。伸してやるっ」
頭に血が上ったとアルトスが思った時には、既に言葉が口をついていた。ジェイストークは、いつもと変わらない笑みを浮かべたままだ。
「きちんと防具を着けてくださいね」
***
稽古だったのか、精神的な緊張をほぐすためだったのか。剣を合わせた後、テグゼルと何か話しつつ城へ入っていったフォースを見送り、アルトスはホッと肩を落とした。
剣を合わせるだけなら何も考えずにいればいい。だが、怪我をさせてはならないので、異様に気を遣う。それでも最近は、フォースが腕を上げたことと無茶をしなくなったためか、少し剣筋の予想が立てやすくなっている。自分の腕を見極められただろうことに腹は立つが、有り難くもあった。
「お疲れ。アルトスを相手にしていると、さすがに腕も上がるようだな」
そう言いながらも、まだ城の扉を眺めているジェイストークに、アルトスは、ああ、と返事をした。
「確かに噂通り、吸収する力は人一倍だ」
「若いってのは、それだけで力だよな」
「年寄り扱いするな」
独り言だったかもしれないジェイストークの呟きにそう返して、アルトスは眉根を寄せる。
「それにしても、なんだアレは。落ち込んでいると思ったら、必要以上に元気じゃないか」
そう聞くと、ジェイストークは吹き出すようにプッと笑った。アルトスは訳が分からずに顔をしかめる。