レイシャルメモリー 1-02
ルーフィスの言葉に、リディアとバックスは視線を合わせて苦笑した。
「なんだ、確信犯だったんですか」
バックスが漏らしたつぶやきに、ルーフィスはノドの奥で笑い声をたてる。
「そうだな。犯人は私だ」
「あ、いえ、犯人って」
慌てたバックスに苦笑を向けると、ルーフィスは、かまわんよ、と一言返し、リディアの肩に手を置いた。
「周りが変わらずにいてくれるからかな。ここには今もアレがいるような気がするよ」
アレという言葉に一瞬目を見開き、リディアは笑みを浮かべてうなずいた。
気持ちだけなら、いつだって側にいる。手を伸ばせば、届きそうな気がするくらいに。そして、フォースが作ってくれたここの空気も、存在を実感させる手伝いをしてくれているとリディアは思っていた。
ルーフィスが外に続く扉を開けた。右斜め向かいの屋根から、ファルが飛んでくるのが見える。
「ファル!」
思わず名を呼んだリディアの声で、寝ていたティオがソファーの背から顔を出した。
「え? ファル?」
寝ぼけた目をこすりながら、ティオはリディアの側まで来る。そこにファルが降りたった。ティオはペタンと床に座り込んで、ファルと向き合う。
「ファル、おはよう」
寝言のような声に抗議するように、ファルはその場でピョンピョンと跳びはねた。
「え? 手紙? 無事かって?」
ティオはファルの足元をのぞき込み、足輪に差し込んである紙を引き抜いた。
「ボロボロだよ。無事じゃないよ」
ティオは、紙の縁が傷んでボソボソになっている紙の束を差しだしてくる。リディアは、それを受け取ってそっと広げ、一枚めくった。隣にいたバックスが、呆気にとられたようにその紙を見つめる。
「真っ白? 何も書いてない」
リディアがその言葉に苦笑して二枚目を剥がすと、その下からびっしり文字が並んだ一回り小さな紙が出てきた。
普段目にしていた文字よりずっと小さいが、間違いなくフォースの字だ。遠くにいるのに、こんな風に存在を感じられるのが、とても不思議で嬉しい。
バックスがその文字に顔を寄せる。
「すり切れるから包んだのか。それにしても厳重だな」
「こちらからの手紙は無事だったんでしょうか」
そう言いながら、リディアは小さな手紙を手に取った。
「それ、ちょうだい」
ティオが残った白い紙に手を差しだした。リディアが渡してやると、クシャクシャと丸めてファルと遊びだす。
その様子に笑みを向けてから、リディアは手紙に視線を落とした。バックスが慌てたように首を引っ込める。リディアはバックスに訝しげな視線を向けた。
「読まないんですか?」