レイシャルメモリー 1-05


「じゃあ、エレンは供物台から連れ去られた時点で、もう間違いなく自分の運命を察したってわけだ」
「供物台って」
 グレイは笑みを浮かべ損ね、口の端を引きつらせた。その笑みを引き取るようにタスリルが息で笑う。
「神への貢ぎ物を乗せるんだ、さぞや立派なものがあるだろうよ」
 もしそんなモノがあったなら、エレンはどんな気持ちでその上に上がったのだろうと、リディアは思いを巡らせた。生け贄ということは、その先にあったのは死だったに違いない。神のために命を失うのは、種族の人間にとってどんな立場、どんな感情を持つものだろう。そしてそれを失うというのは。
「神との対話には、そういう犠牲もあったんだねぇ。お前さんも同じように話せるのかい?」
 タスリルに笑みを向けられ、リディアは苦笑した。
「いいえ。対話というよりも、聞けるだけなんです。種族の方のように話せたらよかったのですけど」
「お前さんまで生け贄になる必要はないよ」
 タスリルの言葉に、グレイが大きくうなずく。
「そんなのフォースに任せておけばいいよ。シャイア様はフォースのことを気に入っているみたいだし、そんなに残忍なことはしないって」
 グレイは、不安げなリディアに微笑んでみせた。リディアは肩を落とすと、小さく息をつく。
「そんなに、ですよね……」
「え? あ、まぁ、そうかもだけど。心配? だよね」
 グレイはウーンとうなり声を上げて腕を組み、視線を落とした。
「そういえば、婚約者のことも、……あ。ご、ごめんっ」
 慌てて謝ったグレイに、リディアは首を横に振ってみせる。
「話すくらい平気です」
「いや、余白があるなら、教えてくれてもいいのにと思ってね」
 難しい表情のグレイに、タスリルはヒヒヒと妙な笑いを向けた。
「婚約者は、まだ八歳なんだ。レイクスは気にも留めていないんだろうよ」
「八歳?!」
 グレイは唖然とした顔になる。リディアはその事実をキョトンとして聞いたが、グレイの顔が可笑しく、口元を手で隠して笑いをこらえた。グレイは大げさにため息をついてみせる。
「知ってるなら教えてよ。妹って言うから、スティアくらいの歳を思い浮かべてた」
「あれ? 言ってなかったかい? 言ったとばかり思ってたよ。悪かったね」
 タスリルに優しい笑みを向けられ、リディアは肩をすくめて苦笑した。
「でも、婚約するのに年齢なんて関係ないですよね。立場だけの問題だもの」

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