レイシャルメモリー 1-06


 そういって視線を落としたリディアに、タスリルとグレイは何も返せず、チラチラと視線を合わせる。
「リディア? あまり暗い方向に考えちゃ駄目だよ?」
「まさか、自害しようとか考えている訳じゃないだろうね?」
 心配げな二人に、リディアは慌てて首を横に振った。
「いえ、そんなこと。現実は現実として受け止めなくちゃと思って。フォースの側にいられるなら、私はそれでかまわないですから……」
 顔が赤くなってくるのが自分でも分かり、リディアは両頬を手で押さえるように隠す。その言葉にグレイは安心したのか、笑みを浮かべて肩が落ちるほど大きな息をついた。
 廊下からお茶を持ったユリアが入ってきた。柔らかな笑顔で、どうぞ、と声を掛けながら、それぞれの前にお茶を置いていく。タスリルはユリアを見上げ、思いついたようにポンと手を叩いた。
「そういや、メナウルの王子様と最近会ってないね。来ないのかい?」
 声を掛けられたユリアは、ほんの少し眉を寄せた。
「そういえば。……そうですね。お忙しいんでしょうか」
「そんなはずはない。と思うけど」
 グレイは苦笑して首をかしげると、ユリアに目をやった。
「何かあった?」
「さぁ。特になにも知りませんが」
 サラッと返ってきたユリアの答えに、グレイはノドに張り付いたような笑い声をたてる。ユリアは訳が分からず、グレイとタスリルに交互に視線を向けた。
「……あの、なにか?」
 タスリルは、顔のシワの隙間にある目を、楽しそうに細める。
「この辺りじゃ、王子様はどんな風に思われているのかね?」
 自分に向けられた質問だと察したのか、ユリアは、満面の笑みを浮かべた。
「とてもいい方だと聞いています。誰にでも気さくに話しかけてくださるし、優しい方だと」
「そうかい。私はあの子がレイクスより擦れてない分、可愛くて好きなんだよ。結婚したら私でも王妃様だ」
 タスリルの言葉に吹き出し、グレイは笑いを押さえ付ける。
「婆さん、なに寝言言って」
「私のことはタスリルさんとお呼び。なにも私が結婚するとは言ってないだろ」
 人差し指を向けられて、グレイは笑いをこらえたまま顔を覆い、はい、と返事をした。控え目に笑っていたユリアが、それでは失礼します、と丁寧にお辞儀をすると、元来た廊下へと入っていく。
 ユリアが見えなくなると、タスリルはグレイと顔を見合わせた。
「いい方、だそうだよ。まだ望みはあるみたいだけどね」
「まさかとは思ったけど、口説いてないのかな」

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