レイシャルメモリー 1-07
グレイはハァとため息をつく。なんの話しだろうとリディアが不思議に思っていると、それを察したのか、グレイがリディアに視線を向けた。
「この辺りじゃ、フォースはどんな風に思われているのかね?」
「真似までせんでいい」
タスリルとグレイのやりとりに頬を緩めながら、リディアは考えを巡らせた。そんな風に聞かれると、自分ならフォースを愛情いっぱいに褒めちぎっていそうだと思う。
リディアの頬が紅潮したのを見て、グレイは片目をつぶった。
「わりと本音が出るんだよね」
タスリルがノドの奥で笑い声をたてる。
「いや、レイクスも情が厚くて好きなんだよ。結婚したら私でも王妃様だしね」
タスリルが独り言のように言って何度かうなずいた言葉は、気を遣ってくれているからだろうと思うと、リディアにはとても嬉しく感じた。
「じゃあ、ライバルですね」
リディアが笑顔で言った言葉に、グレイはまた吹き出し、タスリルは朗笑する。
「勝負したいところだけど、遠慮しとくよ。娘に怒られるのは嫌だしねぇ」
「娘? って、じゃあ結婚してたりするってことですよね?」
疑わしげな顔を向けたグレイに、タスリルは口を曲げる。
「お前さんは好きじゃない」
「そりゃあ。ちょっと寂しいけど、ちょっと嬉しい」
冷笑を返したグレイと一緒に、タスリルが笑みを浮かべた。
「夫ね。そんなモノ最初っから、いやしないよ。娘は引き取ったんだ。孫は……、そうそう、ソーンの様子も少しくらい教えてくれてもいいのにねぇ」
いつの間にか眉を寄せ、タスリルはため息と共に言った。その視線の先、机の中央には、フォースからの手紙が置いてある。
確かに、シェイド神から詩を教えてもらっていたということ、詩にある報謝が生け贄のことだというのは、詩を理解するためにも重要だ。フォースが呪術のことをそれと並べたのは、それだけの意味があることだからなのだろうか。
「呪術なんてあるんですか? 本の世界の話しだと思っていたのですけど」
リディアは疑問に思ったことを口にした。タスリルは大きくうなずく。
「マクラーン城の書庫には、色々な言い伝えや、多くの資料が残っているらしいよ。伝承している人間がいるかは分からないけれどね」
「書庫か。実際行って見てみたいな。なんだか色々ありそうだ」
興味を示したグレイにタスリルは、色々あるよ、と微笑んだ。
「人を幸せにしようというモノから、恨みを形にして危害を加えようというモノ、果ては神を取り込んで自分の力にしようなんて邪術も聞いたことが」
「それ!」
グレイの大声に驚きながら、リディアは二人の話に聞き入る。