レイシャルメモリー 1-09
「よし、次だ。結婚してくれ」
「ええ? ちょ、ちょっと」
「嫌か?」
「え? 嫌とか、そんなんじゃ」
「じゃあ結婚してくれ」
「だ、だから……。もう! いいわ、結婚してあげるわよっ」
「ホントか! ありがとう、大事にする!」
「きゃあ?!」
きゃあって、と思いながら、リディアはあふれてくる嬉しさや可笑しさを笑い声にしないよう、口に手を当ててこらえていた。
少しの時間を置いて、狭い廊下でも楽に通れるだろうほど、アリシアの肩をしっかり抱いたままバックスが出てきた。リディアがいるのが一番に目に入ったのだろう、二人は慌てて離れる。
「おめでとうございます」
リディアは、自然とあふれてくる笑みを素直に浮かべた。バックスとアリシアは視線を合わせ、ありがとう、とリディアに微笑みを返す。
「バックスさん、強引」
リディアはイタズラな表情を浮かべた。アリシアが頬を上気させ、バックスは恥ずかしそうに頭を掻く。
「リディアさん、俺はフォースみたいにかっこつけられないから、強引に行くしかないんだ」
「そんなことない。バックスさん、カッコよかったですよ」
「あ? いや、はは……」
幾分顔を赤くして照れたバックスに、アリシアはふざけ半分の冷たい視線を向けた。
「ちょっと。何照れてるのよっ」
その小声に、リディアがなおさら嬉しそうな笑みを浮かべると、アリシアは苦笑してため息をつく。
「リディアちゃん、分かってるの? 私がこの人と組んだら強力よ。フォース、きっと大変な思いするんだから」
「大丈夫です。私が守ります。守りきれなくても私、困ってるフォースも大好きだもの」
肩をすくめて言ったリディアに、バックスは大声で朗らかに笑った。アリシアもひとしきり笑ってからリディアに笑みを向ける。
「リディアちゃん、強くなったわよね」
思いがけない言葉を聞いて、リディアは気持ちがやすらかになるのを感じた。
「嬉しいです。フォースのためにって思うと、負けていられないことが多くて。きっと今でもフォースが力を貸してくれているんです」
フォースはいつでもこの思いの中にいてくれる。そう思って胸を押さえ言ったリディアに、アリシアは安堵したように肩を落とすと、力の抜けた笑みを浮かべた。バックスは舌を出して後ろを向く。
「なんで婚約したてなのに、あてられてるんだろ、俺」
ボソッとつぶやかれた声にハッとして、リディアは赤く染まってくる頬を両手で隠した。