レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部5章 犠牲の用途
2. 誤算 01


 城内に限ってだが、フォースが部屋の外へ出るのは自由になった。しかし実際城内を歩いてみると、どうしても慣れることのできない不自由が一つあった。
 護衛の騎士が自分の後ろにいるということだ。
 それがアルトスなら、まだよかった。だが信頼していない人間に、背中を任せるのは気持ちが悪い。むしろ自分が護衛の後ろを歩きたいくらいだ。次の瞬間敵に変わるかもしれないと、その様子に神経を集中しながら歩くより、黙って部屋の中にいる方がよほど楽だと思う。
 だからといって外出を許されたからには、ずっと部屋の中にいるわけにもいかない。それに、何もせずに部屋にいては、進展も望めないのだ。
 気を遣っているつもりなのか、フォースはよくレクタードに庭へ出ようと誘われた。騎士も二人以上だと抑止力も働くだろうし、護衛の騎士のどちらかがアルトスになる可能性も高い。その点はフォースにとって都合がよかった。
 そして今は、誘いに来たレクタード、いつの間にか付いてきたニーニアとソーンの四人で庭に出ていた。騎士もやはり皇族分の三人いて、その中にはアルトスもいた。
 ニーニアとソーンは、少し離れた花壇の花をのぞき込み、何か話しているようだ。金髪の騎士テグゼルが、二人の側につき従っている。
 フォースは城に近い花壇の縁に腰掛け、その隣ではレクタードが突っ立ったまま、ニーニアとソーンが遊んでいるのを眺めていた。右に少し離れた場所に、新たに配属になったのだろう見慣れない騎士と、その反対側、左にはアルトスがいる。
 見上げた陽光のまぶしさが、ふとシャイア神の光の記憶と重なった。それは、リディアがシャイア神として反目の岩に現れた時のことだ。膨大な量の情報なのか感情なのかが、頭に流れ込んできた。
 あの時、シャイア神は何かを伝えようとしたのだろうか。言葉として自覚できたモノは一つもなかったが、自分の場所が知れるような危険なことを、ただ意味もなくするとは思えない。
「早く行ってください、必ず助けて。か」
 思考を遮ったその言葉を見上げ、フォースは、何の話だ、とレクタードにたずねた。たずねてしまってから、その反目の岩でリディアが言った言葉だと思い出す。
「だから別れ際。アルトスがフォースを連れてこようとしたら、メナウルの騎士に止められて、それで」
 レクタードは、早く行ってください、必ず助けて、と、リディアが言ったという言葉を繰り返した。
「そうだった」
「忘れてた?」
「その時は意識がなかったし。リディアの口から直接聞いていないからな」

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