レイシャルメモリー 2-02


 フォースの言葉に、レクタードは肩をすくめて、そうか、と手を叩く。フォースは苦笑した。
「なんでそんなことを今さら」
「アルトスに聞いたんだ。強力にリディアさんを買っているから、どうしてなんだろうと思って。その時のこと、詳しく話してもらった」
 リディアからの手紙によると、その手当てこそがシャイア神と戦士としての自分との契約だったらしい。シャイア神はその契約のために、自分の血に流れる毒も一緒にリディアに飲ませたのだ。
 今なら契約は必要だったのだと理解できる。だが、自分の血が毒を持っている時でなくても、話してくれさえすれば機会はいくらでもあっただろう。なにも言わないシャイア神が、憎らしいことこの上ない。
 顔をしかめたフォースに、レクタードは小さくため息をついた。
「リディアさん、可哀想だったかもな」
 フォースは、あの時意識を保っていられなかった自分を不甲斐なく思っていた。結果、同じように離れてしまうのでも、笑顔を残せなかったのだ。リディアのひどく心配そうな視線の中で意識を失うなど、離別の形としては最悪だと思う。
「あんな別れ方をしてしまって。素で帰りたいよ」
「分かるよ。俺もスティアに会いたい」
 うなずいて言ったレクタードの寂しげな微笑みに、フォースは苦笑を返した。
 兄弟揃ってこれでは、クロフォードに呆れられても仕方がないかもしれない。だからといって、単純に諦められる部類の感情でもないのだが。
「もう一度触れたい、抱きしめたい。抱きしめて俺だけのものに……。って俺、そういう奴からリディアを守る立場だったんだけどな」
 フォースは苦笑してため息をついた。レクタードはニーニアに向けていた視線をフォースに戻す。
「ルーフィス殿に頼んできたんだろ? 手が出せなくていいじゃないか。それとも自分がさらってくる時のために、他の誰かに頼めばよかったとか?」
「どっちもどっちだろ。……、じゃなくて。笑えねぇ」
 思わず南の方向を見やり視線を遠くしたフォースに、レクタードはノドの奥で笑い声をたてた。
「待ってるだろ、リディアさんならずっと。心配いらない」
 確かに、会えなくても言葉のやりとりをしている今なら、そう思うこともできる。ただ、それはソーン以外の誰もが知らない事実なのだが。
 フォースは、ニーニアが背を向けたままじっとしているのに気付いた。ソーンも訝しげにニーニアをうかがっている。リディアの名前が耳に入り、聞き耳を立てているのだろうと思う。

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