レイシャルメモリー 2-07
デリックはフォースの思考能力が落ちていることも分かっているのだろう、腹が立つほど丁寧に噛み砕いて話をしている。
「とにかく、シェイド神がレイクス様を必要としていらっしゃる。シャイア神との契約を解いてください」
デリックは、フォースの前にひざまずくと、服に手を伸ばしてきた。両腕を後ろでつかまれたこの体勢だと、左腕に巻いてある媒体に気付かれるまで、時間は掛かりそうだ。それまでに、なんとかしてこの状況から脱しなければと思う。だが、抵抗するだけの力もなく、頭も回らない。
「こうして見ると、本当にエレン様に生き写しだ。あなたが女だったら、あの頃の思いも遂げられたのに」
その言葉にフォースはデリックをさげずむように見た。デリックはチラッとだけフォースに視線を向ける。
「そうそう、そういう邪険な態度が魅力的でした」
「てめぇみたいなゲスに思われてるなんて、知らなくて幸せだったろうよ」
「どうぞ、なんとでも」
腹を立てさせようとフォースが言った言葉に、デリックはククッとノドの奥で笑い声をたてた。デリックの視線が、フォースの胸元に止まる。
「ん? これは?」
デリックはペンタグラムの鎖を手にしている。フォースはハッとして思わず身をひいた。動悸が大きくなる。
「それは、違う」
できる限り感情を抑えて言ったつもりが、声が震えた。動揺を隠せないフォースに、デリックは楽しげに笑って見せる。
「何が違うんです? メナウルでは、これをペンタグラムと言うんだそうですね。シャイア神のお守りだとか。こんなモノを持っていらしたんですね」
デリックは鎖を引いてペンタグラムを取り出すと、フォースの目の前に下げて表情をのぞき込んでくる。
「気安く触るな。それはあんたの言う媒体じゃない」
リディアと交換した大切なモノに、デリックが触れているのが、フォースにはとにかく気にくわない。そんなフォースの反応に目を細めると、デリックはペンタグラムを握りしめ、その鎖を引きちぎった。
「何を?! 違うんだ、返せ! それは違う!」
フォースは騎士の手からなんとか逃れようと、激しく身体を揺すって抵抗した。だが、やはり騎士は何も話さず、びくとも動かない。
「必死ですね。そんなにシャイア神の戦士でいたい理由はなんです?」
「は? バカ言え、誰もそんなことは言ってないだろう。それはシャイア神とは関係ない、返せ!」