レイシャルメモリー 2-08


 フォースの抵抗でペンタグラムを媒体だと思いこんだのか、デリックは満足げにうなずくと立ち上がった。
「これを処分すれば、あとはシェイド神がここから逃がしてくださるのを待つだけです」
 そう言いながら、デリックはベッドを回り込み、窓へと移動していく。
「何をするつもりだ?! それは違うって言ってるだろう、待てよっ!」
 デリックは、窓を細く開けてペンタグラムを持った手を差しだし、もう一度フォースに笑みを向けると、その手をゆっくりと開く。鎖がスルッと手のひらを滑り、窓の下へと落ちていくのを、フォースは呆然と見ていた。
 ガチャっと鍵の開く音がした。デリックが慌てて窓を閉めるのと同時にドアが開き、ジェイストークが入ってくる。
「デリック殿、何をなさっているんです?」
 ジェイストークはドアを目一杯開き、デリックの背中から声をかける。デリックがなにも言わず薄ら笑いを浮かべているのを見て、フォースは部屋に充満している薬のことを思い出した。
「ジェイ、部屋から出るんだ、薬が……」
「大丈夫です。デリック殿とその騎士が中和剤を服薬しているのを見かけたので、念のためご相伴にあずかったんですよ」
 そのジェイストークの言葉を睨みつけるように、デリックは振り返った。
 ジェイストークは側に飾ってあった花瓶を手にすると、デリックに向かって投げた。花瓶はデリックが避けた後ろの窓を、盛大な音を立てて突き破る。ドアから入ってくる空気が、壊れた窓から吹き抜けていく。
 デリックは疑わしげにジェイストークを見やった。
「どうして鍵を……」
「二つずつあるはずが、ここだけ一つしかありませんでしたので、紛失だと勘違いして注文してあったんです。つい先ほど届きまして。手回しが早すぎたようですね」
 ジェイストークの言葉に、デリックの顔が一層険しくなる。ジェイストークはデリックにきつい視線を向けた。
「一体どうしてこんなことを」
「お、お前こそ、もしかしたら、?!」
 デリックは目を見開くと両手でノドを押さえ、大きく口を開けてヒュウと苦しげに空気を吸い込む。
「約束が! 救い出してくださると!」
 絞り出すように声をあげると、ガハッと咳をするように息を吐き出した。口から何かあふれ出たかと思うと、その口自体もノドを押さえた手も、すべてがただれ、液体のようになって流れ、崩れていく。フォースもジェイストークも、息を飲み、ただ呆然とデリックを見ていた。
「ここは……? あ?! レイクス様?!」
 フォースの腕を押さえていた手がビクッと震え、離れる。

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