レイシャルメモリー 2-09


「私は何を、うわぁ?!」
 フォースが振り返ったすぐその先で、騎士の身体もあらゆる部分がただれ始める。
 思わず目をつぶり、フォースは初めて自分の身体にもシェイド神の攻撃を受けていることに気付いた。ただれかけたジェイストークの手に触れると治ったのを思い出し、発作的に騎士の溶けかけた腕に手を伸ばす。
「レイクス様っ?!」
 ジェイストークが慌てて駆け寄ってきたが、さすがに手を出せずにいる。
 フォースが触れたことで、騎士の身体はほんの少しだけ回復しかけているように見えた。フォースは思うように動きのとれない身体で必死に立ち上がり、騎士をその身体で支えた。腐敗臭が鼻につき動悸が激しくなり、苦痛に顔をゆがめる。
「レ、イ……」
 騎士は、形を取り始めた顔に微かな笑みを浮かべると、フォースを押しのけるように離れた。とたん、騎士の身体の組織が骨を伝い、果てはその骨さえも、ドロドロした液体に変化し床に向かって流れていく。
 逆に、フォースの身体はいくぶん楽になった。虹色の光が身体を満たしていくのが分かり、その中心にリディアの想いも感じる。フォースは膝をつき、その想いを抱きしめるように身体に腕を回すと、騎士だったその物体が動かなくなるまで見つめていた。
 我に返ったジェイストークが、フォースに歩み寄る。
「レイクス様、まだ薬が残っています、部屋を出ましょう。それに、着替えも」
 その声に、フォースはジェイストークを見上げた。自分に向けて手を差しだしているその無事な顔を見て安心する。
「待ってくれ」
 フォースは、自分の手や服に騎士だったモノが付着しているのを見て、ジェイストークの手を借りずになんとか立ち上がった。吐き気がするのをこらえ、そのままフラフラとペンタグラムを落とされた窓の方へと向かう。
「レイクス様?」
 フォースはジェイストークに返事もせず、壊れた窓枠を外へと押しやり、窓の下をのぞいた。
 そこは城壁の外側だった。かなりの高度があり、地形が分からないほど木々が茂っている。
 城壁の外側では、ペンタグラムを探しに行くことは許してもらえないだろうし、あの様子では容易には見つからないだろう。せめてその向こう側、広がる町並みに落ちたのなら、探し出せないこともないだろうが。
 ふと、フォースの身体に腕が回った。そのまま軽々と抱え上げられる。アルトスだ。
「なっ? なにすんだ、放せ! 薬が残っているのに、なんで入ってくるんだ」

2-10へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP