レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部5章 犠牲の用途
3. 思惑の所在 01
マクヴァルと顔を突き合わせても、クロフォードの瞳の奥には、少し前にフォースが廊下で見せた、苦しげな表情がこびり付いていた。
フォースがポツポツと話す、シャイア神との契約、媒体などのことが脳裏に蘇ってくる。
「デリックはシェイド神がレイクスを必要としていると言ったとか。どういうことだ?」
クロフォードは、祈りを中断して向き合ったマクヴァルに、できる限り冷静にたずねた。
シェイド神に必要とされる。本来は喜ばしいことだ。だがそのやり方は、フォースの命にさえ関わっていた。いくら神の行いでも、強行に事を進めるのは、どうしてもやめてもらいたい。
年老いた神官が三人、冷たい石壁の側でなにか話をしているのがボソボソと聞こえている。その壁にマクヴァルの乾いた声が響く。
「いえ、私も驚いているのです。まさかレイクス様がシャイア神と契約まで交わしていたとは」
「契約、とは?」
クロフォードはフォースから説明された契約について、マクヴァルにもたずねた。マクヴァルは、はい、と軽く頭を下げる。
「本来、神の守護者達は武器を持たないのだそうです。しかし、守護者と族外の人間との間に生まれた子は戦士と呼ばれ、神と契約を交わし、武力を持つ手先となります」
マクヴァルが言った内容は、フォースの言葉とほとんど変わらなかった。ただ、契約することでシャイア神に守られてはいるが、他のことについては分からないとフォースは言っていた。
「これで分かっていただけますね? シェイド神がレイクス様に会いたがらないのは、そのためです」
大切なのは、契約した神との距離が力を制するための重大な要素だと言う事実を、マクヴァルが知っているかだ。だが、マクヴァルは、それ以上詳しく話そうとはせず、話を先に進めた。
「レイクスがシェイド神に危害を加えると?」
フォースが言っていた詩の全文に照らし合わせると、裂かねばならない影はシェイド神かマクヴァルかだ。そしてフォースはマクヴァルが影だと言っていた。
険しい表情のクロフォードに、マクヴァルは苦笑する。
「レイクス様はシェイド神に仕えねばならないお方なのですよ? シャイア神との契約は、破棄していただかねばなりません」
マクヴァルは、はぐらかしたつもりなのか、フォースがシェイド神に危害を加えると思っているかの返事はなかった。
だが、マクヴァルも一部だがあの詩を知っている。もしどこかでその全文を知ってしまったとしたら、間違いなくシャイア神の戦士であるフォースの殺害を考えるだろう。いや、もしかしたら、もうすでに知っていて動いているかもしれないのだ。
「それにしてもあの薬、命の危険まであったと言うではないか。そんなモノを使ってまで、そのようなことを」