レイシャルメモリー 3-02


 クロフォードはマクヴァルの真意を確かめたかった。マクヴァルは顔をしかめると、ゆっくり長いため息をつく。
「シェイド神がレイクス様を、……、生け贄にしたいとのことです」
「なんだと?」
 クロフォードの背筋が一気に冷たくなった。シアネルでエレンが供物台にいた光景が脳裏をよぎる。
「一体なぜだ?」
「エレン殿を生け贄にできなかったからです。それも神の血のために起こしたことではあったのですが」
 マクヴァルは、エレンに会った時から生け贄のことはすでに決められていたと言うのだ。クロフォードは胸にこごった疑問を感じながら、苦しい息を吐いた。
「今さら、そんな」
「シェイド神は巫女を差し出せと言ったきり私の言葉を聞いてくださらないのです。デリックの起こした事件も、それと関連しているのだと思われます」
 その言葉を聞きながら、なんのために神官としてのマクヴァルがいるのだと、クロフォードは怒りに似た焦燥感を感じた。
「どうにかできぬのか」
 急き立てるように言うと、マクヴァルは眉を寄せ、いかにも遣り切れない表情で頭を下げる。
「やはり神には守護者の血が必要なのだろうかと」
「シアネルでの種族探索の人員を増やすことにする。代わりが必要なら何人でも用意できるように」
 拳を握ったクロフォードに、マクヴァルはうなずいて見せた。
「そうですな、身代わりがいれば少しは気持ちを収めていただけるやもしれません。ただシェイド神は、エレン殿の血を持ったレイクス様を欲しておられるのも事実なんです」
 マクヴァルは頭を上げ、クロフォードに視線を合わせてくる。クロフォードは一層顔をゆがめた。
「しかしそれでは、神の血を王家に入れることが、できなくなってしまうではないか」
「それでもなお、シェイド神はこの行動をとられたのですよ? ニーニア様が身ごもられたら、その先……」
 クロフォードは、全身から血の気がひくのを感じた。このままでは間違いなくフォースは生け贄にされると、マクヴァルは言っているのだ。
「とにかく危険なのです。レイクス様をお守りしたいなら、万全を期さねばなりません。契約を破棄し、巫女を差し出していただけたなら、まだ説得のしようもあるかと」
 巫女と聞き、クロフォードはため息と共に顔を覆った。マクヴァルが微かに笑ったように感じ、クロフォードは眉を寄せる。
「もしや、幽閉を解いて国を見てもらおうとそなたが言っていたのは、こうしてレイクスを罠にはめるためだったのか?」

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