レイシャルメモリー 3-03


「とんでもございません。レイクス様に考え直していただけないかと思ったので進言したまでです。生け贄のことを隠ぺいしていたのは、正直にお伝えしてしまったら、陛下が苦しまれるのではと」
「しかし、知らなければ対策も立てられんではないか」
 クロフォードの険を含んだ視線に、マクヴァルは軽く頭を下げた。
「必要な時になりましたらお話しするつもりでした。まさかシェイド神が私にもなにも言わず、こんなに早く行動を起こされるなどと思ってもみませんでしたので」
 マクヴァルに返事を待つように顔をのぞき込まれたが、クロフォードは口を閉ざしたまま苦々しい視線だけを返した。マクヴァルは困ったように首をかしげ、言葉をつなぐ。
「それに、対策とおっしゃられましても、道は一つしかありません。契約を破棄させ、巫女を差しだしてください。レイクス様が大切なら、迷うことではありますまい」
 その言葉を聞き、クロフォードはこれ以上話しても何も進展しないだろうとため息をついた。
「実は、今現在、巫女を拉致するための準備を進めているところだ。ただ、もう少し待っていただきたい。準備ができ次第、連絡が入ることになっている」
 クロフォードは一言一言ゆっくりと口にした。この事実を知らせておくことで、少しでも時間が稼げるのならそれでいいと思った。
 意表をつかれたように、マクヴァルの目が丸くなり、かすかな笑みがこぼれる。
「そうですか。ではまずは待たせていただきます。あ、もちろんシェイド神の説得は続けますが、陛下もレイクス様がご自身でシャイア神との契約を破棄するようご説得ください」
 クロフォードの表情が変わらないことを感じたのか、マクヴァルは眉を寄せ小さく首を振った。
「残念ながら、私は神にとって器であるだけです。どうにかして差し上げられるなら、このような思いをせずともよかったのですが」
「よい。頼んだぞ」
 マクヴァルが頭を下げたのを見て、クロフォードはドアへと向かった。
 そこにはいつの間に移動したのか、年老いた神官が一人立っていた。その神官は、しっかりと頭を下げている。チラリと見やったクロフォードに、しわがれた声が緩く響く。
「まさか、神殿を疑っておいでではありませんでしょうな」
「ならば、隠し事などなさいますな」
「隠す? いえ、こちらはあなた様の信仰心を、微塵も疑っておりませんでしたのでね」
 老齢の神官は一度頭を上げ、再びお辞儀をした。その表情は神殿の暗さと深く被ったフードに隠され、うかがい知れない。神官は声を低くする。
「このままでは、神に見放されてしまいますぞ」
 前にマクヴァルが言っていた言葉だ。クロフォードは顔をしかめ、黙したまま部屋を後にした。

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